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音楽について

The Weeknd『STARBOY』は聴いておかないと2020年に必ず後悔する

そっと忍び寄る静かな衝撃。姿を変え、気配を消し、わずかな精鋭を従えて確実に標的を狩る。

11月25日に全世界同時シェアされたThe Weekndの新作『STARBOY』を一聴したインパクトがまさにそれだった。デビューから自身のトレードマークだったヘアスタイルを一新し、ビジュアル面からトラックメイクに至るまで、徹底したコンセプトを掲げた今作『STARBOY』は、まさにThe Weeknd自身の手によって第2章を迎えるにふさわしい内容だ。

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トータルタイム68分、全18曲と前週にシェアされたBruno Mars『24K Magic』とは対照的なボリュームである。あくまで“デジタルアルバム”として現代のテクノロジーに則った今作は、圧倒的なボリュームからも、アルバム全体を通して聴かせる自信に満ち溢れている。まだ聴いてない人は是非デジタル購入するか、Spotify, Apple Musicなどでストリーミング視聴してみてほしい。もしこの機会を逃すようなことがあれば、2020年の東京五輪の際、世界各国の人々が日本を訪れた時「キミは『STARBOY』聴いてないの?」なんて会話が交わされた瞬間、あなたは確実に赤っ恥をかくはずだ。

 

アルバムがシェアされるまでの巧みなマーケティングは以前書いたnoteに任せるとして、ここではなぜ『STARBOY』が2016年の決定打と称されるのかを、アルバムに関係する人物や作品を挙げながら紐解いてみたいと思う。

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01. Daft Punkとのシンクロニシティ:「Starboy」「I Feel It Coming」

まず、何と言ってもDaft Punkを2016年の音楽シーンに召喚した(引きずり出したとも言える)功績は大きい。Daft Punkにとって、最新作は3年前にシェアされた『RANDOM ACCESS MEMORIES』(2013)まで遡り、パフォーマンスにおいては2014年のグラミー賞以降、一切登場していないことになる。


そんな表舞台から距離を置いたDaft Punkが、なぜThe Weekndの為に現場復帰したのか。おそらく、The Weekndの唯一無二な声はもちろん、過去を葬ってまで未来を創造する、その大胆なクリエイティビティにデビュー当時の、または革新的作品となった『Ramdam〜』制作時の自分たちを重ね合わせたのではないだろうか。今作を聴いていると、The Weeknd自身の音楽的バックボーンにアクセスできるとともに、彼が『Randam〜』に抱いていたアメリカン・クラシックへの偏愛にも近い眼差しを感じることができる。

テクノロジーの代償をその身をもって表現して来たDaft Punkが(彼ら自身のビジュアルも“1999年9月9日にコンピュータのバグによって機材が爆発しサイボーグ化してしまった”というイントロダクションがDaft Punkにはある)今回の『STARBOY』で自分を殺してまで新たなペルソナ獲得にこだわったAbel Tesfaye(*The Weekndの本名)に、思わず自分たちを投影してもおかしくはないはず。むしろ、誰かに自分を重ねることが音楽表現において今年トレンディなことは間違いないことだ。

実際、それらを裏付ける証拠としてDaft Punkがフィーチャリングした「Starboy」「I Feel It Coming」の2曲に耳を傾けてほしい。名だたるプレイヤーを起用し、アナロギーなサウンド・プロダクションにシフトした『Ramdam〜』以降のDaft Punk作品として位置付けても、この2曲は過去と未来の両極をアップデートしたトラックメイクが意識的に施されている。どちらもスムースなR&Bビートで持って、The Weekndのヴォーカルが際立つボトム作りを意識している。

ビートと低音域に見るDaft Punkの変容は、チップチューンビッグビート、EDM、フューチャーベースなど、今現在までのビート/エレクトロミュージックの変化を常に2, 3歩先取りしていた。ジャズやヒップホップ、エレクトニカなどを結集させた複合的な音楽作品が『Ramdam〜』以降に数多く誕生したのも記憶に新しい。

The Weekndも、ネットを通じて3枚のミックステープをフリー配布したことから話題を集めた出自を持つ。未だサブスクリプションサービスがニッチなコンテンツだった時代、Chance The Rapperより3年も早くアクションを起こしていることも、改めて挙げておこう。

先進性と更新性をノスタルジーに浸かることなく、テクノロジーを持ってアウトプットする。The WeekndがDaft Punkというこれ以上ない存在をバックに付けられたのは決して偶然ではない。未来を作り出すお互いの創作本能が、2016年のタイミングで引き起こした、必然とも呼べるシンクロニシティが本質にある。

The Weekndは最新インタビューでDaft Punkとスタジオ入りするその日、すでに自分のために曲が用意されていたことに興奮した旨も語っている。表題曲である「Starboy」、本編後エンドロールBGMの役割も担う「i Feel It Coming」が双璧を成しているように、彼らのスタジオワークによって生じた化学反応が『STARBOY』全体のコンセプトに直結しているのは言うまでもないだろう。

02. 2人のシンガーと孤高のラッパーがクロスオーバーする:「Sidewalk」

Daft Punkの眠っている間、世界の音楽の中心に居座り続けたラッパーがいる。

『STARBOY』シェア前に公開されたトラックリストに記載されたゲストアーティストには、そのラッパーの名がしっかりとクレジットされていた。Lana Del Rey, Futureと並び、誰もが胸熱くしたその名、時代をときめくラップスター:Kendrick Lamar、その人である。

 以前noteにて2016年におけるKendrick Lamarの活躍をまとめたが、どうやらその末尾に“The Weeknd『STARBOY』”を追記する必要がありそうだ。2人の邂逅に驚きはしなかったが、コラボレートしたM6「Sidewalk」を耳にしたその瞬間、2016年の頂を見せつけられた気がした。

「Saidewalk」にて、冒頭、The Weekndはこう歌う。

I ran out of tears when I was 18

(18の時に涙を流しきってしまった)

 

さらに

Rich folk problem through a Queens Street nigga's eyes

クイーンズストリートから富裕層の問題を見続けてきた

 

以上のように、自身の体験をリリックに織り込んでおり、静寂で狂喜に満ちたその文脈はKendrickのヴァースにも伝染している。ダーティーかつアバンギャルドなリリックは聡明で風通しの良いライミングとともに「Sidewalk」を盛り上げ、アルバムのちょうどセンターに位置していることからも、アルバムの裏リードとも受け取れることができる。

※詳しいリリック全文はこちらで↓

半生とユーモアを認めたThe Weeknd。ギャングスタなキーワードと卓越したライムセンスでアルバム中枢を刺激するKendrick Lamar。柔と剛を合わせた才能がぶつかる場所が「Sidewalk」(=歩道)というのも面白い。そのトラックタイトルもThe Weekndが敬愛するMJが得意としたダンス(サイドウォーク)にも由来してるのかもしれない。Kendrickも、それは理解しているはずあろうが。

そして、この強烈な才能に割って入るゲストヴォーカルがもう1人。人口約2万人、ミシガン州はイプシランティ出身の R&Bシンガー:Daniel Wilsonである。今年6月にデビューEP をシェアしたばかりの26歳で、私も以前Twitterで紹介したばかりだったが、まさかその次に名前を目にするのがThe Weekndの新作いなるとは。

しかし「Sidewalk」にて彼の声を聴き、すぐさまSam Smithの顔を想像した人も多いはず(実際自分もSam Smithだと思い込んだ)。それほど神々しいDanielのファルセットヴォイスには、Sam Smith同様の魅力を多くのリスナーが見出したのではないだろうか。

魅惑的なファルセットを持つ卓越した彼が、The Weekndと同一線上で並べられる事で注目されるのは必須だ。アメリカン・ミュージックの純然たるそのフックアップ精神には感服するばかりだし、リスナーはフックアップに対して非常に柔軟な免疫を持ってもいる。「Sidewalk」ではソングライティングを務めているA Tribe Called QuestAli Shaheed Muhammadなどの目にも、間違いなく止まったであろう。彼にまつわる今後の展開も注目しておいて損はなさそうだ。

2人のシンガー( The Weeknd, Daniel Wilson)、そして孤高のラッパー(Kendrick Lamar)。「Sidewalk」1トラックだけみてもこの熱の入れようだ。彼らがThe Weekndとこのタイミングで運命を共にしたのは、後々大きなトピックとして浮かび上がることだろう。それがわかるのは個々の次なるアクションかもしれない。そんな先の期待も匂わせるアルバムとして、『STARBOY』はマストで押さえておくべきだと改めて強調しておきたい。

03. サンプリングに見る優れたリスナーとしてのThe Weeknd:「Secrets」「False Alarm

アルバムシェア直前に公開されたビジュアルムービー『M A N I A』にて流れるアルバム収録曲の中で、そのサンプリング素材が話題となったのがM6「Secrets」。

まずはサンプリングされた元ネタである2曲を。

Tears For Fearsのヒット曲「Pale Shelter」と、同じく83年にリリースされたThe Romanticsの代表曲「Talking in Your Sleep」を見事に調理した「Secrets」。具体的にどう調理されているのか。

フランジャーのかかった「Paul〜」のシンセベースをリズムループに引用し、乾いたクリアトーンのリズムギターを丁寧にインサート。そしてサビで「Talking〜」をほぼそのまま引用している。これはサンプリングの基本としても、アレンジメント、ひいてはリスナーの面でも優れているとしか言いようがない出来だ。

この曲がツボ!という、主に80年代に青春を謳歌した40代後半から50代の方も多いはず。イギリスを中心としたムーブメント:ニューロマンティックと、そのニューロマンティクが海を渡ったアメリカで隆盛したブリティッシュ・インヴェイジョン(第2次)。同時代性とリヴァイヴァリズムを融合させたThe Weekndのリスナーセンスは、彼が音楽史と系譜に捧げた、惜しみない愛情の片鱗と取るべきだろう。

80年代とサンプリングをキーワードにすると、M2「False Alarm」にもそのエッセンスが隠し味程度だが忍ばせてある。アウトロ部分に流れる女性の呻き声にも似たスキャットは、89年にリリースされたエチオピアのディーヴァAster Aweke「Y'shebellu」にて聴くことができる。

自分にはエチオピア音楽の知識が全くと言っていいほどないが、日本の演歌と同様にコブシに近い歌い回しがあったり、アフリカ特有のリズムやスケールとは別のアクセスを経た大衆音楽が生活に根付いているなど、エチオピア音楽には特殊な土着性が感じられる。Asterはそんなエチオピアからアメリカに拠点を移して音楽活動を続けたことでも知られているらしいが、The Weekndが彼女に行き着いた経緯も含めて、彼のパーソナルな音楽との付き合い方がワールドワイドに広がっていることがここからもわかる。

他にも、先に紹介した「Sidewalk」でAlicia KeysYou Don't Know My Name」(2003)のメロディアスなバックビートが引用されているなど、シンガー / パフォーマーである以前に、The Weeknd自身が優れたリスナーであることがこれらサンプリング元からも改めて分かるはず。さらに重要なのは、サンプリングされた曲そのものが生まれた当時のロマンや時代背景を汲み取り、適切な人選、適度なアレンジを加えて自身の血肉としていることだ。リスナーとして、ソングライターとして、またプロデューサーとしてのThe Weekndは、2016年に鳴らすべき音と鳴らしたい音を淀むことなくイコールで結びつけている。新時代の幕開けを高らかに宣言しつつも、万人に浸透するかしないか、そのギリギリのポピュラリティーを分かりやすく音で伝えている。その聞きやすさと危うさのボーダーラインに秘められた仕掛けこそ、前作『Beauty Behind the Madness』まで続いた自身にトドメを刺す凶器(「Starboy」のMVで言えばライトセーバーのような赤色の十字架)なのだと思う。

04. Cashmere Catがいる理由:True Colors」「Attention」「All I Know feat. Future」「Die for You

ここまで色々な項を挙げておいてなんだが、『STARBOY』をまとめてしまえば、過去の自分との決別、新しい音楽シーンへの引導、そして自身が愛してきた過去のアーカイブに捧げたリスナーとしての愛情表現を、多くの仲間の手を借り、徹底的に作り込んだアルバムなのである。

その仲間の中で、ピンポイントで1人のサウンドクリエイターにフォーカスを絞ってみると、この作品が2017年ではなく、2016年の内にシェアされておくべきアルバムだったことを説明することができる。

Kanye WestやFrank Ocean、Britney SpearsにFrancis and the Lightsといったシーンの最前線で注目作・名作をシェアしたアーティストのアルバムクレジットには、必ず“Cashmere Cat"の名前があった。そのことに気付いたのは夏が終わりを迎えた9月半ばだっただろうか。

彼のクレジットワークとボキャブラリーに興奮したまま、勢いでまとめたnoteではThe Weekndについても触れていた。Kendrick Lamar然り、不思議と自分のnoteにクリップした面々が2016年末に繋がっていく現状に少々戸惑いもするが。

True Colors」「Attention」「All I Know feat. Future」「Die for You」とアルバム最多4曲にクレジットされた事実からも、Cashmere CatとThe Weekndの良好な関係性は言わずもがな。Cashmere Catが現行の音楽シーンのトレンドにフィットしているのはもちろんだが、むしろ、The Weekndが彼を起用した理由は、そのフィットしたトレンドとは逆方向のクリエイター気質を持っているからではないだろうか。

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2人を取り巻く2016年のR&Bやクラブシーンには、当然のようにヒップホップやインディーロック、そしてセレブリティの名前も並列している。ジャンルは細分化されていく一方で、その一つ一つを牽引していくランドマーカーは取捨選択され、残ったものは世間からジャンルやカテゴリの救世主として崇め立てられる。つまり、自分がやりたい音楽を表現する際、誰と手を組み、どうアウトプットするかで、作品の、ひいては自分自身のアーティストカラーの方向性も決められてしまうのだ。『STARBOY』でいえば、Daft Punkは先進性を象徴する存在でもあると言えるし、そんなDaft Punkでは補えない、”ベッドルームから生まれた同じ境遇のクリエイター"の象徴にCashmere Catを選んだことは、単に過去を葬り最新を更新するだけではないということを意味している。

では、Cashmere CatはThe Weekndにとって具体的にどんな象徴なのか。ベッドルームからメジャーシーンの最前線をPCと才能で行き来する現代プロデューサーである前者と、ベッドルームから一夜でメインストリームを闊歩する権利を勝ち得た後者。出自は似通ってもいるが、ここ数年の互いの音楽シーンのポジションは少し気色が違っている。それはKendrick LamarやLana Del Reyも同じ、2013年から細かく分けての2年間は、現状のシームレスな音楽トレンドが形成されていく段階だったが故に、各々が進化を求められる時期でもあったからだ。

 “変化”と“進化"は違う。Kendrick Lamarは去年『To Pimp a Butterfly』によって“進化”した。同アルバムは人種差別や世相も含め、“変化”を促したアルバムになったが、『STARBOY』も同じように“進化”から“変化”を誘発するような効力を持っている。Cashmere cat自身もデビュー・アルバムを制作している最中であり、おそらくそれも“進化”の潮流を含んだものになっていくはずだ。

 互いが互いの“進化”を誘い、共犯関係を結び、“変化”したと認識される経緯が、2016年の音楽シーン全体での相対関係であり共通点でもあった。Cashmere Catのバウンシーでフューチャリスティックなサウンド&ビートが、『STARBOY』の中で普遍性とも希少性とも取れるトラックに用いられているのは、そんな“進化”自体の“変化”を塗り替えたかったからではないだろうか。

見た目だけでも、中身だけでも、進化は語れない。どちらも変化させるために必要な人材、その旗手としてCashmere catや上記のコラボレートがいるのだと思うと、このアルバムの響きもまた違ってくるはずだ。

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上の4項目以外にも、このアルバムに関する稀有なトピックはいくつもある。

亡くなってしまったPrinceとはレコーディングする予定だったとか、アルバムタイトルもDavid BowieStarman」に起因しているなど、実はサウンド・クレジットや参加したゲスト以外の、人間的な部分での影響が今作には幾重にも織り込まれている。

多くのメディアがシェアする今年の年間ベストに『STARBOY』は選出されないだろうが(リリース時期も問題もある)、改めて3年後、2020年の節目で振り返った際、このアルバムがあったとなかったとでは2016年の価値は大きく違っていたと、きっと誰かが何かの作品で言及するはずだ。もし誰もいないなら、自分がやるだろうけど。

 

 

 

 

 

政治と音楽で考える多様性の罠

柴さんのブログを見て、思わず色々なことを書き殴りたくなったのでここに。

shiba710.hateblo.jp

もうご存知の通り、第64代アメリカ大統領選挙は大方の予想に反し、共和党のドナルド・トランプが対抗のヒラリー・クリントンを破り勝利した。それは、オバマの次の大統領がトランプに決まった、ということでもある。

自分は政治を深く考察できるほど知識はない。一応、選挙権を得た20歳から欠かすことなく選挙に一票を投じてはいる。日本の政治や興味ある国の情勢ぐらいはスマホを介して毎日見ているし、朝と深夜のニュース番組だって流し見程度にはチェックしているつもりだ。

 

On News Zero in Japan shortly!! 😎🎸

#VoteHillaryさん(@ladygaga)が投稿した写真 -

電車の中で経済新聞を読み込んでいる人には到底敵わないが、いわゆる”ゆとり世代”と区分されてきた自分と同じ世代層の人たちは、物理的に遠いアメリカのリーダーの話に日々の時間を削ってまで耳を傾けているのかどうか、自分でも疑心暗鬼になる。

自分は柴さんのブログ同じく「音楽」という切り口において、今回の大統領選の動向を気にしていた。初めから政治についてではなく音楽が動機にあるだけに、自分の政治観みたいなものとは一定の距離をとり、興味深く今回の選挙戦を眺めていた。

そしてもう一つ。今回急にキーボードを打ちたくなった引き金がロッキングオンの羽鳥麻美さんの「ドナルド・トランプが米大統領に。音楽には本当に力がなかったのか」というブログだ。

ro69.jp

柴さんも言及している所在地や所得によって優劣が左右される際、そのどちらにも優位に立つ都市圏の高所得者、相反する地方の低所得者では圧倒的に後者の方が数多く存在するのは当然のことだ。日本でも中央集権や地方格差といったテーマで幾度となく議題になってきた事柄は、所変わっても発生する絶対的なジレンマであり、知識を持った人類が生んだ醜い争いの一つでもある。

floormag.net

音楽はいつだってそんな格差や差別のボーダーラインを超えてきた。時に1人のミュージシャン、時に1曲のヒットアンセム、時に1つのムーブメントが政治的、経済的に隔てられた人を繋げ、それは言語や人種も関係なく拡大し、僕たち私たちの歴史を創造してきた。必ずしもそれらが政治と繋がっているとは言えないが、時代を象徴する音楽/曲というのは、期せずしてその瞬間に生じた出来事とリンクして語られていくものである。

今年6月に起こったイギリスのEU離脱をめぐる一連騒動も、ミュージシャンは自身のファン、リスナーに向けてメッセージを発したがその願いは届かなかった。

ro69.jp

イギリス、アメリカの民主主義の崩壊。そんな風にネーミングされた記事も見かけた。でも、国民自身によってもたらさられた結果なのもまた事実。そして多くの国民は何かしたの音楽リスナーでもあるはずだ。間違った結果にならぬよう、ミュージシャンや芸能人達はライブで、SNSで、至るところでメッセージを発し続けていた。

ではなぜ、多くのファン/リスナーを要するミュージシャンたちの声がなぜこうも無情に響いたのか。それは羽鳥さんのこの一節が全てを説明していると思う。

これだけ多様性が謳われ、わずかながらでも少数派に肯定的な社会の仕組が整い始めてもなお、自分と違う意見、ものの見方、そうしたものに出会う機会や好奇心、探究心は、もはや努力しないと得ることすらできなくなっている。

どのカルチャー、テーマ、ジャンルでも引用される「多様性」。2016年の音楽を語る上でも「同時代性」と肩を並べてよく目にする言葉だ。音楽でも、スマートフォンの普及、Spotifyの登場やジャンルの細分化など、全てにおいて選択肢が増えたこと=「多様性」に置き換えることが出来る。

しかし、人はそんなに選択肢が多くても、いま自分が置かれた状況の中でしか選択ができない。選択肢が多かろうが少なかろうが、選択肢の中で”それ”しか選ぶことしかができないのだ。弱者とされる人による民意=EUの離脱、ドナルド・トランプと選択されたこと、それは高齢化社会が極まり、地方と都市の所得差が顕著な今現在を象徴する民主主義の一つの結果、とも受け取れる。

自分もSNSやブログを通じて自己主張している以上、多様性の中に組み込まれているし、少なからず多様性における偏った意見を無意識に鵜呑みにしている時もあるだろう。多様すぎることで安易にチョイスした選択肢のみに満足し、そのまま全能感を得てしまうことほど恐ろしいことはない。選択の多様性ではなく、多様性ある人が選択肢を作っていくことの方が健全なのかもしれない。

Appleの現CEO:ティム・クックは、今回の大統領選の結果の後、Apple社員を「多様性」に富んだ人達と称し、以下のメッセージを送ったらしい。

www.buzzfeed.com

ティムらしい発言だと共に、もしジョブズならどうしていただろう?と考えてしまった。おそらく「多様性」なんて都合の良い言葉は使わないだろう。

情報を待っていることが当たり前になったネット社会で、情報に踊らされている人はたくさんいる。自分もそうだ。だからこそ情報を求められる人でありたいと思うし、そのためには羽鳥さんの引用部にあるように、常に興味を絶やさないことが大切だとも思う。

音楽を聴くだけ。それでも構わないが、好きな歌があって好きなアーティストがいるなら、彼ら彼女らの声と行動にも注目してほしい。ほんの少し意識して耳と目を傾けるだけで自分の考え方に何かしら刺激をもたらしてくれると思うから。

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話は飛ぶが、トランプを選んだ「サイレントマジョリティー」の層が欅坂46の存在を知る由も無いだろうが、改めてこの曲が2016年にシェアされた意味も考えてしまう。〈Yesでいいのか?〉〈No!と言いなよ〉と歌う曲の中には以下の一節がある。

どこかの国の大統領が 言っていた(曲解して)

声を上げない者たちは 賛成していると…

選べることが大事なんだ 人に任せるな

行動しなければ Noと伝わらない

ここでいう大統領はニクソンをモチーフにしているのだが、奇しくも11月14日現在では見事のトランプを当てはめることできるフレーズになっている。最近ではナチスの軍服問題もあったが、秋元康自身の政治観が反映されたわけでもないだろう。ただ、現在を切り取り続けてきた秋元康が「サイレントマジョリティー」なんてキーワードを無鉄砲に使うはずもない。つまりはここ日本でも、近い将来、EU離脱やトランプ大統領のような結末を迎える出来事が起こるのかもしれない。もしかしたら、もう後の祭りの段階なのかもしれないが...

www.youtube.com

 

Bandcamping Vol.3〜バンドキャンプで聴ける2016年のニューミュージック

お待たせしてませんが、Bandcampingの第3弾です。

久しぶりすぎて、自分でも過去に2回やっていたことすら忘れてました...

Bandcamp中心に入手・視聴できる音源を集めた特集なんですが、ありがたいことに年々フォローするページが増えて、今や毎日80通近い通知メールが届くんです。その中にはメジャーな作品もあれば、全く聞いたことのない名前のバンド、新しい音楽ジャンルから気色の悪いサウンドまでピンキリ。明確にジャンルを狙ったものから宝くじのように思わぬ出会いもあるBandcampは、使う人、使い方によって表情を変える音楽プラットフォームでもあります。

Bnadcampの利点はアーティストが作り出した製品(音源、アイテム)に直接対価を支払うことができることですが、name your price(リスナーが購入価格を決められる)やフリーダウンロードというように、需要/供給それぞれの状況に適した形式をその都度選択することができます。

 ということで、改めて活用について前置きしましたが第3弾はズバリ”BCで聴ける2016年のニューミュージック”です。

すでにCDでリリースされているもの、多くのメディアに取り上げられてる音源と、11月現在で現状は様々ですが、それでもBandcampを中心にピックアップした音源と関係する音源などを短くまとめてご紹介します。

以下、Vol.1, 2もよければどうぞ。

01. Dripping Wet - "Friends Forever"

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Dripping Wetなるテキサス州デントン出身の4人組ドリームポップバンドがどういった経緯か上海のインディーレーベル:BoringProductionsからアルバムをシェア。彼ら自身のBandcampアカウントから見るに、去年シェアしていた作品に過去のシングル(『Everything Grows // Yearbook』)を加えた新装盤が今作。4人全員がヴォーカル/コーラスを担当しており、歌に対してのイニシアチブが強いのかと思ったが、音源を聴く限りベースやシンセなど音そのもののボリュームがとにかくデカイ。ノイズやハウリングも聞こえるローファイなバンドサウンドはドリームポップブーム初期の懐かしい香りを想起させてくれる。一応Facebookもあるようだが、Twitter同様、ほぼ放置状態。「シティーハンター」などの画像も貼っていることからジャパニーズカルチャーに興味があるのだろうが...ならばなぜ上海のレーベル?と改めてその理由が気になる。

昨年はフィラデルフィアのアートロック/ガレージパンクバンドMarcury Girlsメディア企画で制作したミックスに収録曲「Everything Grows」がチョイスされていた。A Sunny Day In GlasgowThe Pains of Being Pure at HeartGirlpoolなどサイケデリックなバンドとも地続きで聞いてもらいたい。

02. RISONAM - How Lucky

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Seint Pepsi (現:Skeyer Spence), Spazzkid (現:Mark Redito), マクロスMACROSS 82-99Flamingosisといったヴェイパーウェイヴ/フューチャー・ベースを出自に持つ著名なトラックメイカーを数多く輩出してきたネットレーベル:KEATS//COLLECTIVE。そんな名レーベルに新たに名を刻んだのがバンクーバーの若きトラックメイカー:RISONAM。レーベルカラー通り、フューチャーベースを主体としながらも、ファーストインスピレーションとしてはやはりDaft PunkBreakbot直系の80'sハウスミュージックへの偏愛が伺える。洗礼されたコラージュセンスにはアシッドジャズやオールドスクールのビートも内包されており、レーベルの諸先輩同様、幅広いトラックメイクスキルを今後発揮してくれることだろう。

 以前は本名のAXIOM名義でも活動しており、その時の作品『The Sleep In Artist』(2015)ではチルウェイヴからのアプローチも感じられる。すでにBCのアカウントが排除されているためダウンロードはできないが’(視聴は可能)、レトロポップカルチャーをネットの海で自由に解釈するためのトレンドセッターたる力量はすでに備わっていたと言っていいでしょう。

03. Emily Reo - Spell 10"

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NYのブルックリンといえば、2000年代前半から2010年代にかけて隆盛したアメリカンインディーズムーブメントの中心地であり、今現在もその立ち位置は変わることなく雑多で自由、誰もがインディーズメントを背負うことのできる街である。

インディーズという言葉がメジャー化したことで、アーティストの認知度に比例せずとも素晴らしい音楽は数多く存在することが、ここ数年のインターネットにおける音楽コンテンツの充実によって明確なものとなった。デビューから3年が経過したブルックリンのシンガーソングライター:Emily Reoもそんな隆盛とネットワークの過度期に大きな影響を受けたミュージシャンの一人だろう。

デビュー作『Olive Juice』(2013)の時点ですでにシンガーソングライターの型にはまらない、フォークトロニカ、ネオフォークの精神を持ち合わせていた。サンプラーとアナログシンセを多様したグルーヴにフォーク調のコードを当てるディレクションは同時期に花開いたBon iver, Hundred Watersなどと共鳴するところがあるだろう。

name your priceでシェアされたシングル「Spell」は、ヴォコーダーを大胆に使用したサウンドコラージュが特徴的だ。合わせてシンセにも同エフェクトをかけることで過剰なまでにトラックのタフネスを際立たせており、十分なヴォリュームをシングルにて表現することでアルバムへの期待も膨らませている。カップリング「Stronger Swimmer」では水流音とシンセを絶妙にコラージュさせており、物悲しげなサウンドスケープに対して神秘的なヒーリング要素も加えている。

今回からカナダ出身で現在はトロントにて活動するWarren Hildebrand(from Foxes In Fiction)主宰のレーベル:Orchid Tapesからシェアされている。彼女とOrchid Tapes、そしてその周辺の音楽相関図は非常に愉快で、今シングルのクレジットを見てもなるほどと頷ける名前が並んでいる。ミックスは主宰でもあるWarrenが手掛け、ストリングスアレンジにはOwen Pallettが参加。Owenは今年Orchid Tapes所属のYohuna (a.k.a Johanne Swanson )の新作『Patientness』を全面プロデュースしており、Warrenもベース、Emilyもメロトロンにて参加している。

上記に挙げられたミュージシャンにまつわる作品として、夏にシェアされたOrchid Tapesのレーベルコンピレーションも合わせて紹介したい。

EmilyとYohunaが共作した「Teach You」、アッシュビルのローファイバンド:Elvis Depressedlyが2013年にリリースした『holo pleasures』に収められた「Weird Honey 」をOwen Pallett & Foxes in Fiction名義でカバーするなど、2016年も未だブルックリンを軸にした相関図の拡張が進んでいることを物語るラインアップに注目してもらいたい。特にAlex Gに関してはFrank OceanEndless』『Blomde』にてソングライティング面で多大な貢献をしており、改めて2016年を裏で支えたソングライターであることも最後に付け加えておきたい。

 ちなみに11/11にシェアされるSpeedy Ortizのフロント・ウーマン:Sadie Dupuisによる新プロジェクト:Sad13にEmilyはシンセベースで参加しているので要チェック。

04. Carter Tanton - Jettison the Valley

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 シェアされてすでに8ヶ月が経ってしまっているが(リリースは3/4)、Carter Tantonの紡ぐ音は冬支度の始まるこの10月にこそ聴きたくなるサウンドだ。

15歳から地元のバーステージにてライブ活動を始め、Pixies4ADからデビューするキッカケを作った初代プロデューサー:Gary Smithに御褒められたボルチモア出身のニューフォークSSW:Carter Tantonの2ndアルバムが今作。The War On Drugs, Sharon Van Ettenとの共演・サポートなどを務めたことからもボルチモアフィラデルフィア〜ブルックリンとアメリカーナ・ミュージックが北上するごとにサイケデリック性を強めていく傾向を感じ取ることができる。といってもCarterの音楽は別名義のプロジェクト: Luxury Linersに見るエレクトロ・ポップの引き出しや、サポートギターとしてツアーにも帯同したMarissa Nadlerに見るエキゾチックなコーラスワークなどを経て、独自のフォーク解釈を極めつつある。「Diamonds in the Mine」「Jettison the Valley (feat. Marissa Nadler) 」などを聴くと様々な経験によるフィードバックがギターやリズムに反映されていることを実感してもらえるはずだ。

Sharon Van Ettenが2曲参加しているが言わずもがな、黙っていても耳に入り込んでくる渋いコードに思わずハッとさせられ、その存在感の大きさに驚く。『Are We There』(2014)以降はツアーやフェスと並行して様々なプロジェクトに参加し、最近もフロリダの銃乱射事件に関して銃の安全性を訴える団体への支援金を募るために新曲「Not Myself」を書き下ろしたばかりだ。

Marissa Nadlerも『Jettison the Valley』とほぼ同時期に新作『Strangers』をシェアしている。発売元は前作同様Beach Houseらを抱えるBella Unionからだが、制作は暴力的なインダストリアル、グリッチ、荒々しいローファイポップまで幅広いジャンルのアーカイブを持つSacred Bones Recordsが担当していて、これには何か彼女の新たな意図があるのでないかと少し勘ぐってしまった。

 Carter Tanton, Sharon Van Etten, Marissa Nadler周辺の東海岸ベルトの動きについては今後もThe War On Drugs, The National, Kurt Vileらとの動向と合わせて追っておくとよりアメリカインディーミュージックを楽しむことができるはずだ。

 04. EZTV - High In Place

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再びブルックリンから。Ezra Tenenbaum (Vo, Gt)、Shane O’Connell (Ba)、Michael Stasiak (Dr)の3人がSpiritualizedの米ツアーにおけるバンドメンバー募集のために組んだバンドがEZTVの原型で、現在バンドはSpiritualizedとは系統の異なる独自の進化を遂げている。9月にリリースされた2nd『High In Place』は前項で述べたブルックリンインディーのもう一つの潮流とも呼べるカントリー/ブルースポップを汲んでおり,それはプロデューサーであるWoodsJarvis Taveniereの名を見つければ自然と納得できる。

3ピースでありながら達観した音を奏で、コーラスワークやテンポの取り方には熟練した経験値を感じずにはいられない。各々が音楽に精通しているのはもちろん、何よりブルックリン産のインディーポップへの造詣が深いこと、スネアの鳴り、ギターピッキングによるアタックのセンチメンタルな響きなど、細部にまで作品作りのこだわりが行き届いている。タイトなドラミング、気をてらうことなき普遍なグッドメロディー、60〜70'sアメリカンフォーク/ポップスへのリスペクトを徹底的にバンドサウンドへ昇華する熱心な姿は、ここ日本のニューミュージックシーンの盛り上がりにも共通する点だと思う。

現在バンドはMerchandiseのサポートを務めているが、先月まで回っていた北米ツアーの模様を収めた「Racing Country」のMVでJarvisを通じて知り合ったであろうJenny Lewisの姿を見つけることができる。Jennyはアルバムにも冒頭の「High Flying Faith」に参加。Jenny自身もEZTVはお気に入りのバンドのようである。

アルバムにはJenny以外にもReal EstateからMartin Courtney, Matt Kallman (ex:Girls)が参加しており、そのReal Estateとは北米ツアーを回っている。今年初めにはボストンでのステージでMartinと共演も果たしているのが記憶に新しい。

ゲストとしては今年2月に『Plaza』をシェアしたボストンのサイケデリックロックバンド:QuiltからJohn Andrews、かつてはDearfeefのメンバーでもあり、今年3月にはEZTVと同じくCaptured Tracksから新作『As If Apart』をシェアしたLAのSSW:Chris Cohenらがセッションに参加。Catwalk名義での活動を経て、The Byrdsの意志を引き継いだかのようなセンチメンタリズムを現代に甦らせたオークランドの才人:Nic Hesslerもクレジットされており、皆それぞれ多種多様な活動範囲を持ってインディーズシーンを盛り上げている。

 12月には Ultimate Paintingのサポートの為、三度アメリカに帰国しツアーを行うようだ。ぜひ日本にも来てもらいたい。

05. Weyes Blood - Front Row Seat To Earth

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アメリカ西海岸の有名なリゾート地サンタモニカに生まれた女神は、壮麗な容姿とは裏腹に実に天邪鬼で、奇天烈なミュージシャンとなってしまった。

Weyes BloodことNatalie Meringの織り成す音はアートワークとは裏腹にエキサイティングであり、牧歌的であり、唯一無二のポップソングでもある。多くの場所でNicoを例にダークサイドのポップアイコンとして語られることが多いが、確かにその流れに沿って語ることも至極真っ当だと思えるほどキャラクターとしてシニカルな人物だ。

美しさもさることながら、実はアーティストキャリアもすでに20年を超えているのだから驚きだ。お茶の間に出ることが許されないバンド名を持つJackie-O Motherfuckerにヴォーカル&ギタリストとして在籍していた過去も踏まえて、一筋縄ではいかない奇抜なアート表現は今作のコマーシャルでも健在である。

音楽性としては60年代のフォーク、カントリーをマイナーなポップスに振り切らせたようなメロディーが特徴的で、見方によればプロテスタントソングとも聴き取ることができるだろう。とにかく、どこかしらが歪んだレンズを通して世界を見ているよう。先行公開されたMV「Do You Need My Love」はまさにズレた設定がキーポイントとなっている。

ただ、被写体として理解不能な点がありつつも、その奏でる音楽の美しさに聴き惚れる点においては揺るぎがない。ノスタルジアの地平を見つめながらシルクロードを行く歌人のように、どの時代、どの土地にも根付いていく温かみのある声は、悪魔のような天使のささやきとでも言おうか。

Ariel Pinkなどを要するレーベル:Mexican Summer契約したデビュー作『The Innocents』から2年の歳月を経てシェアされた新作『Front Row Seat To Earth』(=地球の最前列席)は彼女のキャリア史上最も外に向けられた作品である。

Bandcampでは探す・見つける・追うといった全ての索敵結果において”タグ”が重要になってくる。単純に自身の出身地、メインジャンル、サブジャンル、楽器を付ける他にアーティストのアイデンティティーを象徴する言葉、新たにトレンドとなりそうな造語など、タグを見ることでアーティストが何を表現したいのかが見えてくる。

Weyes Bloodは常に"Celtic"(=ケルト), ”medieval”(=中世の〜)の2つをタグ付けしている。これを知っていれば「Do You Need My Love」のMVも彼女の築いた音楽表現の一つであることを理解してもらえるだろう。Bandcampというプラットフォームの特性を利用し、彼女はアートセンスをより神秘的なものにしながらリスナーにオリジナリティーを創造する楽しさも届けている。

エンジニア/プロデューサーに04で紹介したCarter Tantonが携わっていることも、インディーズの奥深き相関図を物語る一コマだ。人種の坩堝であるNYから中世のケルティッシュフォークが2016年にアップデートされているこの事実に、音楽と人の底知れぬ面白さが秘められているのかもしれない。

 07. KOOL A.D. - HAVE A NICE DREAM

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 いや、もっとクリエイター然としたアー写もあったにはあったけど...ただ、彼の音楽の更新速度や1作1作にかける過剰なまでの質量を象徴する画として、この皮肉めいた姿が一番しっくりくる。

ブルックリンを中心に約4年間活動していたヒップホップグループ:Das Racistの中心メンバーVictor VazquezのソロプロジェクトがKOOL A.D.である。他にも大学時代の友人たちと結成したBoy Crisisでのバンド活動もこなしていた過去もあり、当時はMGMTなどと共演するなど多彩な経歴を持つ。

冒頭に触れた通り、彼は異常なまでに多作家である。2016年現在、すでに8本のミックステープ(!)を自身のBCを通じてシェアしており、その内2本は100曲入りという破格のスケールを持って多作家を自負している。

 3月は『ALL LOVE』、4月には『REAL TALK』とマンスリーでシェアしたテープは、Das時代から彼がメインフィールドとしているオーソドックスなネタを引用した作品。随所にトークボックスやオートチューンを使用しているのは、やはり昨今のロボ声ブームに乗っかったのかな?とも。ただ、そんな最新のムーブメントを自身のスキルに反映させる能力に長けているからこそ、アイデアが乾かないのだろう。

 6月には10曲入りの『KOOL A.D. IS DEAD』 がシェア。ここでもトレンドであるバンドサウンドとサンプリングを大胆に取り込んでいる。バンドメンバーにはBoy CrisisからLee Pender, Alex KestnerTal Rozenがそれぞれギターやヴォーカルトラックを提供。他にもAriel Pinkのバックバンドを務めていたSpencer Owenなど、ライヴシーンで切磋琢磨し合った者同士の健全な関係性が生んだコラボレートに胸躍る。そんな友人たちのため、キチッと課金制を採用しているあたり、Bandcampと上手に付き合っている代表的なアーティストの一人であるといえよう。 

2016年に入りとにかくハイペースで作品をシェアし続けるKOOL A.D.だが、ここでさらにギアを1段階上げていく。4本目のテープ『GODS OF TOMORROW』 は『KOOL A.D. IS DEAD』からわずか3週間のスパンでシェアされ、世間の度肝を抜いた。前作のバンドサウンド・サンプリングの実験的なアプローチから再びオールドトラックを強めたヒップホップ作品に回帰するこの物腰の軽さ、改めて尊敬してしまう。

ソロワーク初期から一緒に作業を行っているカリフォルニアのプロデューサー:Amaze88が大半の曲を手掛け、その他にもクイーンズのディープディスコ系トラックメイカー:Mike Finitoが参加。

何と言っても驚きなのがFlying Lotusを長とするBrainfeederの猛虎:Busdriverと、シカゴにて路上生活を行いながら成り上がったブレイクビーツラッパー:Sharkulaのハイレベルなマッシュアップを堪能できる「PARTY TIL UR PREGNANT (SEANCE IN THE STUDIO REMIX) (FEAT. BUS DRIVER & SHARKULA) (PROD. DADDY KEV & TOO SHIRTS)」だ。Daddy Kevなどのトラックで15分半の大曲を完成させただけでも、このテープを聴く意味がある。

ネットコンテンツの強みである”録って出し”をここぞとばかりに利用したこのハイペースのリリースに対して、中身の質が全く劣ることがない、むしろ、トラック数、参加ゲスト、アティテュード、そのどれもが洗礼されていくのが不思議だ。

 洗礼されたテープをシェアした1週間後、7月に突入してすぐに『ZIG ZAG ZIG』なる100曲入りのテイク集を世の送り出す。もはや多作家の形容すら見当違いだったとリスナーとしてくじけそうになるが、アウトテイクとなった100曲をname your priceで提供するその裏には「捨て曲などない」というクリエイター精神溢れるメッセージを読み取ることもできる。

8月にはベイエリアのトラックメイカー/ラッパー:Trackademicksが全編プロデュースした『OFFICIAL』を世に放ち、E-40を元ネタとしたトラックにKOOLのCOOLなライムを載せるアヴァンギャルドな作風がなんとも痛快。

 

盟友Toro Y Moiなどを迎えた9月度の『PEYOTE KARAOKE』も全100曲のテイク集。『ZIG ZAG ZIG』同等の様々なトライアルの痕跡がパッケージされており、中でも70年代後半、ニューヨークを中心に隆盛したアンダーグラウンド・ムーブメント”ノー・ウェイヴ”を象徴する作品『No New York』(プロデュースはBrian Eno)には収録されず、後にSonic Youth結成の立役者ともなったGlenn Brancaが在籍したことでも有名なTheoretical Girlと、70~80年代を股にかけたBrian EnoTalking Headsでたどり着く人物:David Byrneを下地にした「HECKA VARIATIONS INTERNET REMIX (FEAT. THEORETICAL GIRLS & DAVID BYRNE) (PROD. KOOL A​.​D​.​)」など、前衛的なトラックメイクにも挑戦している。

JapanのベーシストであったMick Karnのインタビューセッションをサンプリングした「
GOLDEN RADIO VOICE (FEAT. MICK KARN) (PROD. KOOL A​.​D​.​)」も、声の加工に着手した点で最新作『HAVE A NICE DREAM』に繋がるセンテンスだと捉えることができる。

 10月末にシェアした新作は、上記7作での経験を踏まえた傑作であると共に、インターネットとリアルのボーダラインを融解させることに成功したニューミュージックの金字塔と例えられてもいいアルバムだ。

Trackademicks, Toro Y Moiらはもちろん、ブロンクスGordon Voidwellが手掛けた「JUST LIKE MAGIC (PROD. GORDON VOIDWELL)」ではThe Weekndなどを代表とするアーバンソウルなヴォーカルを真似ることで、2016年のミュージックシーンのド真ん中を撃ち抜く準備を整えている。80年代のディスコサウンドをアップデートしたGordonのトラックは、ヴェイパーウェイヴ〜フューチャーベースのさらに先の在り方を掲示しているようだ。

だが、あくまでGordonのトラックメイクにおけるトライアルウォームアップで、やはりメジャーシーンと接続するためにはそれを操るコンダクターと共犯関係になる必要がある。そこで招いた共犯者こそKanye West, Bon Iver, Cashmere Cat, The Weekndと錚々たる面子と肩を並べた風雲児:Francis and the LightsことFrancis Starliteその人だ。

”Prismizer”と呼ばれる特殊なヴォーカルエフェクトが特徴となる電子プログラミングが果たしてKOOL A.D.とマッチングするのか?結果は不安を払拭するどころか、Francisの物悲しげなヴォーカルとの絡みは抜群で、同時代性のラインアップにKOOL A.D.の名を並べるに何ら躊躇することない1曲に仕上がっている。

ベイエリア注目の新星Lil Bにトラックを提供していることでも知られるKEYBOARD KIDとは幾度となく作業を重ねてきたことが過去のアーカイブ、アウトテイク集を見ればわかるが、インパクトのあるタイトル「AMERICA IS DEAD (PROD. KEYBOARD KID)」を聞く限り、抽出に時間をかけたスウィートなメロウトラックは作品全体を決して浮いた存在にしないような立ち位置を担っている。

駆け足で振り返ったが、少しでもKOOL A.D.のタダモノではないクリエイティビティを感じてもらえたら幸いだ。彼の作品はname your priceでのシェアも多く、おそらく年内にあと1作は発表するのではないかと思われるので、ぜひフォローしておくことをオススメします(一応オフィシャルサイトのページも)

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