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音楽について

5つの「名盤」ではなく「必聴盤」

9月、もう終わりますね…読む人によってはもう10月に突入している人もいると思いますが。

9月は音楽好きにとって大豊作と呼べる月になりました。2014年もいよいよ終盤戦。9月以降にリリースされる音源がどうしてもその年を想起させる作品になってしまうのはしょうがないことでもありますが、今年は各月ごとに金字塔や名盤と呼ばれるものが立て続けにリリースされているのも確かです。

名盤の定義は人それぞれですが、音楽シーン、もしくはそのアーティストやバンドにとっては自らの「今」を反映させた作品なわけです。なので、名盤と呼ぶよりは"必聴盤"というべきかもしれませんね。

 

今月は世界に目を向けてもU2Songs of Innocence』の無料配布事件(?)に始まり、BANKS, Aphex Twim, Perfume Genius, そしてThom Yorkeの新作などが立て続けにリリースされました。Appleが制作から発売に至るまで費用を負担し、一方的にリスナーのiTunesに自動で取り込まれる無料アルバムを配信したU2と、ファイル共有システム「BitTorrent」のバンドル配信システムを使用してクリエイターとリスナーが「BitTorrent」を介し、お互いの存在を認識しあえる方法でアルバムをリリースしたThom Yorke。同じ月に短いスパンで両作がリリースされたことで、インターネット上における音楽体験の幅もより広い間口で楽しめるようになりました。その反面、どの販売フォーマットがクリエイター/リスナーにとって最善なモノなのかを見極める力も、同時に必要になってきています。

 

自分も最近はインターネット上で音楽体験を楽しむことが多くなってきました。以前紹介した『Secret Songs』『ヴェイパーウェイヴ』の記事もその一つです。もちろんそれらと同等にCDを購入し、ライヴに足を運ぶこともあります。なので音楽が手に取れない、目に見えない、ダウンロードやストリーミングだけで完結する娯楽へ音楽が移行してしまうのは反対です。世界広しと言えど、未だに日本はCDフォーマットでの購入に愛着を持っている希有な国です。そこは欠点ではなく独自の可能性として、音楽体験における一つの楽しみ方として受け取っていくべきだと思います。

それに関しての記事も張っておきますね。


ニューヨーク・タイムズが稀有な日本の音楽市場を紹介。未だに売上げ85%をCDが占める現状をどう報じたか? | All Digital Music

 

今までの話は世界に目を向けた時の話になりますが、日本だからこそ作れた、世界にも劣らないオリジナリティーを発揮した「必聴盤」が同じ9月に数多くリリースされました。

その中でも以下の5枚は今後レンタルでもいいから、2014年中に聴いてほしい、いや、聴くべきアルバムだと。アナタは日本の音楽で楽しめますか?というリトマス紙的な役割もあるぐらい、この5枚はマストで押さえておいてほしいです。


01. UNISON SQUARE GARDEN - Catcher In The Spy


"桜のあと (all quartets lead to the?)"と”harmonized finare”というポップを追求して見えた一つの到達点的シングルを強芯に、その他のアルバム曲がバンドイメージや従来の形態からではあり得ないほど思い切りよくフルスイングしている。リスナーがどんな価値観や音楽観を持っていようともヒットではなくホームランに持っていけるほどの自信を感じるし、シャッフルビートや変則的で独特な曲構成と共に、歌詞における言葉の鋭利さも増した作品になっている。ロックバンドやフェスのあり方がとやかく言われる今に自分たちの作品に自信と確信が持てないと意味がない。ユニゾンらしいファイティングスピリットの表し方だと思う。

Catcher In The Spy(初回限定盤2CD)

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02. YUKI - FLY

このアルバムに関しては「YUKIがエレクトロダンスなアルバムをリリースする」というだけでもう正義だと言っていい。可愛いは正義という、男性にも女性にも通じる感性に、ネットミュージックにおけるアンダーグラウンドでヒップなサウンドをドッキングさせる。普通ならそれを方向性が変わったとか、流行に流されたと揶揄したくなるものだけど、そんなことYUKIはソロデビューと同時に当たり前のようにしているのだ。"誰でもロンリー"における絶対的なリリックワーク、"波乗り500マイル(feat. KAKATO)"でのラフでダーティーなノリなど、前作『megaphonic』から2014年までの音楽シーンにおける紆余曲折を反映させた内容に仕上げている。それを楽しんで歌い踊って魅せてるのが、まさにYUKIのスゴさだろうね...

FLY(初回生産限定盤)(DVD付)

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03. SMAP - Mr.S

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以前にもコンセプト面での話はしたのでそちらも合わせて。改めて楽曲提供のバリエーションの豊さと、ライヴにおいてのダンディズム表現も考慮した選曲はオジサンアイドルしか出すことのできない、経験値からの魅力が存分に堪能できる。小手先だけでもなければ、決してテクニカルな部分だけで勝負するわけでもない。アイドルがアイドルであることを自覚し、先の自分たちの姿を自らの意志で舵を切って決めていくスタイルがまさに極まったアルバムだ。

Mr.S(初回限定盤)[2CD+DVD]

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04. くるり - THE PIED


くるりの音楽は親しみやすさのあるメロディーと、抽象的ではあれど、人ひとりの単位で生活の中にミクロにもマクロにも入り込んでくる、まるで五線譜の魔法のようなものだと思う。音楽ライターの柴那典さんがnoteにてこの作品におけるエポックメイキングなインタビューやメッセージをまとめてるので、是非アルバムを聴きながら一つ一つ確認してみてほしい。もしそこになにか付け加えるなら、音楽知識や経験値の差など気にせず、街中やテレビ/ラジオから流れる音楽にばかり耳がいってしまう人にこそ届いてほしい作品だということ。そして洋楽がカッコイイと思っている10代のリスナーにも届いてほしい。

THE PIER (初回限定盤)

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05. 赤い公園 - 猛烈リトミック

アルバム1曲目”NOW ON AIR”がラジオ愛、音楽愛を歌い、そこで涙したと思いきやそこからブラックホールのように猛烈なリトミック(幼児期における音楽教育)がはじまる。常に変化自在のフォームを駆使しながらポップスとしての認識にこだわる彼女たち。ドメスティックでチャーミングな表紙と、方法論と筋道をしっかり立てる背表紙に挟まれてパッケージされた2ndアルバムは、ガールズバンドが内に秘めた才能を遂に手名付けたからこそ、泣けて、笑えて、憂いて、暴れられるものになったのだと思う。意外と正攻法な制作過程と実験的なアプローチが絶妙にせめぎ合っているので、インタビュー等を読んで理解しながら聴いても、また新しい音楽体験ができると思う。(レジーのブログ 2014年の重要作、赤い公園『猛烈リトミック』について津野米咲に聞く津野米咲(赤い公園)×蔦谷好位置「猛烈リトミック」特集 (1/6) - 音楽ナタリー Power Push

猛烈リトミック(初回限定盤)(DVD付)

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音楽を当たり外れで判断するのは嫌いだけど、聴かないで得られるものがあるなら、それはただの退屈だと思う。そんな退屈から逃れる為にも先に触れたU2やThom Yorkeも含め、このブログで取り上げてきた音楽の再生ボタンを押してほしいのです。

個人的な望みとしては、別のアーティストのファンと、また別のバンドのファンがネット、メディア、それがフェスやCDショップでもいいんだけど、どこかで接点を持ち合わせて、互いの音楽的刺激の新しい分野を開花させてほしい。

今は音楽以外にも娯楽は数多くあるし、音楽を意識的に追求して探求する人は少ないのかもしれない。だからこそ今回は「必聴盤」というポップを掲げ、無理やりにでもリスナーに届いてほしいなぁと思い筆を走らせ...いや、キーボードを叩いてみました。

 

最後に、今回挙げた作品以外にも軽く。というかこの2曲も必聴ですよ、ホント。


・ねごと - アンモナイト!/黄昏のラプソディ

2曲とも新機軸なようで今までのねごとの持つ色彩豊富なメロとリズムをベースにしている。テクニカルなアルペジオとベースラインが特徴の"黄昏のラプソディ"は、赤い公園"NOW ON AIR"同様、アップテンポ泣きソングです。

黄昏のラプソディ

黄昏のラプソディ

  • ねごと
  • Rock
  • ¥250

 

・きのこ帝国 - 東京


歌にフォーカスを当てたニューアルバムからのリードシングル。「東京」という他人同士の集まりで出来た大きな集合体に潜む幸せと、その幸せから感じる渇きをフィードバックさせたギターで表現することでこんなにも儚く、それでいてロマンチックな世界観を創造できるとは。彼女たちをシューゲイズバンドと言うのは簡単だけど、この曲、そして次のアルバムでポップシーンにおいても何かしら新しい息吹となる存在になるだろう。