読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

out-focus

音楽について

2013 〈MY BEST ALBUM 25〉~No.1

【No.1】My Bloody Valentine - m b v

MBV

音楽サイト「eleking」にてマイ・ブラッディ・バレンタイン(以下マイブラ)の最新ライブレポが掲載された。ライターはマイブラといえばこの人、黒田隆憲氏。もう細かいことはこのレポを見てもらいたいが、2月の新木場スタジオコースト最終日に参加した体験も踏まえ、この『M B V』について、そしてマイブラについてやはり自分の言葉で語りたくて仕方がない。ということで、個人的年間ベストアルバム堂々の1位は〈マイブラ、22年振りの新作〉、それである。

まずこの『m b v』というセルフタイトルも含め、パッケージ/ジャケット/音質/トラック、そして流通方法に至るまで、このアルバムは綿密に計算された“ハイクオリティアルバム”だと思う。突然のアナウンス。バンド公式サイトからのダウンロード、もしくはCD・LPとのセット販売。前年に過去作のリマスター盤等が発売されていながらも、それを物ともしない全体として控えめな音圧。そのどれもが最小で最大のインパクトを残すために必要な手法だった、と考えることができる。

今まで膨大な制作費用と時間をかけてきたバンドが、意外にもあっさりとその最新形態を世の中に公表したこと。それは22年の空白が生んだマイブラという奇妙なカリスマ性をいとも簡単に更新してしまったのだ。

アルバムの中身はといえば、そんな更新や最新を嘲笑うかのようにモノラルなサウンドが特徴だ。もしこのアルバムを聴いて「音が小さい」「なんか物足りない」と疑問を感じたなら…おそらくそれも正解だろう。でもそれがそのままこのアルバムの作品としての評価には繋がらない。マイブラの音楽にとって大切なのは「表裏一体」な音楽体験、つまりは〈実験成果〉ではなく〈実験経過〉をリスナーと共有することからが重要なのだ。

だからこそ「nothing is」のようなひたすらループを使いこなす楽曲から、ジェット気流をサンプリングしたかのようなドラムンベース調の「wonder2」まで、22年経って尚、このバンドが実験を続けていることがこれらの楽曲アプローチからも分かる。さらにアナログレコーディングからデジタル処理を経てマスタリングされたこのアルバムの制作過程も、Kevin Shieldsらしい温故知新の流儀であり、それも含めてファンとしては「聴いてやろうじゃないか!」という対抗意識が生まれてくるというもの。そんな制作側とリスナーがガチンコで向き合う場が『m b v』であり、ここ日本ではライブ会場でもあったのだと考えたら、今年は本当にマイブライヤーだったと言える。

話を来日公演に移そう。

2月の新木場スタジオコーストでのライブは、過去と最新をすり鉢で混ぜ合わせるような、次元のマッシュアップが垣間見れた空間だった。『m b v』からは「new you」のみ披露されたが、「I Only Said」「Only Shallow」など過去の名曲たちからマイブラ名物「You Made Me Realise」でのノイズピットに至るまで、イイトコ取りのフルコースだったライヴで満足度はチケット代以上のものだったのは間違いない。所々ミスプレイによる仕切り直しはあったものの、それも含めて常に実験経過をリスナーと共有するマイブラが、自分は大好きである。

このアルバムを1位にしたのはこういう形態(というかスピード感?)みたいなモノが来年も驚きと興奮を生んでくれると考えているからだ。それはベテランだとか無名の新人だとかのボーダーラインを超え、単純に中身や存在感、今回のマイブラのようにこだわりを強みに、裏から表へと出ていくだけの革命があるはず。Devid BowieもBeyonceも同様のスタイル(ノープロモーションからの公式発表&発売)で、ある種の新規ファンを獲得しただろうし、もちろんChance The RaperやDeath Gripsのようにアルバムフォーマットでも無償でネットに回遊させて評価される場合もある。選ぶ選択肢は無数にあるし、逆に言えば無数にある選択肢から自分たちのこだわりとスタイルを最良の形で伝える方法を選べばいい。この『m b v』は22年というインターバルも、シューゲイズのカリスマという虚像もすべてを置き去りにしてしまうほどの「正しいこだわり」がある。

自分の「好き」を押し付けてでも、音楽における探究心と挑戦を貫いたその”マイブラらしさ”にこそ、2013年のナンバーワンをあげたい。

 

《追記》

手直しも含めて予想した2014年の展望は、このマイブラの新作、そしてKanye Westの『Yeezus』をステップに想像以上に飛躍したアクションとして今年を盛り上げましたね。マイブラ自身は休息の時間に入ったけど、デビーはTHE THURSTON MOORE BANDのバンドメンバーとして活発的に世界を飛び回っている。来年には〈Hostess Club Weekender〉で来日するにも嬉しいニュースだ。

そういえばケヴィンは以前のインタビューで「新しいEP」の計画をほのめかしてもいた。その計画の進行状況が全く持って分からないので(というかこの計画も本当!?)、大きな期待はしなくてもマイブラという存在は常に意識に留めておこう、とは思う。