out-focus

音楽について

2014<MY BEST ALBUM 20> ~20→11~

【No.20】Pisces - Pisces

ロスの3ピースロックバンドThe Happy Hollowsのヴォーカル兼ギタリストSarah Negahdariによるソロプロジェクト。Happy~では骨太でダイナミクスを長所としたヴォーカルが持ち味だったが、このPiscesではプロジェクト全体の傾向としてファズ、サイケ、ドリームポップなどを加えたフォークソングがベースとなっている。全編に亘って上質なメロディーとダビングされたドリーミーなSarahのヴォーカル/コーラスを堪能でき、メロや歌が大好きな日本人でも聴きやすい質感を持つ作品だと思う。今年は他にもKaren O, La Seraなど、バンドのフロントマンやそのメンバーのサイドプロジェクトが様々な化学反応を生んだ年でもあった。Panda BearやJulian CasabJulianなど、前年に参加した作品のクリエイティブな勢いをそのままカタパルトにしてシーンに爪痕を残す作品もあったのできっと来年も、バンドからのソロ活動、またソロを経てのバンド活動と一度で二度オイシイニュースが多く流れてほしい。その期も込めて、海外のより小さなインディーミュージックと日本のリスナーを繋げる意味でも今作をチョイス。「聴きやすい」という感想も大切だよね。

 

【No.19】Pharmakon - Bestial Burden

Bestial Burden

ミステリアスな美貌とセクシーな佇まい。時折見せる憎悪とも好意とも取れる熱い眼差し。そんな表裏一体なファーストインプレッションを一瞬にして叩き割るPharmakonことMargaret Chardietの音楽は、近年シーンやリスナーが好むであろうミニマムでハイファイなポップミュージックとは正反対に位置するものだ。しかし、いつの時代もこのような「絶叫」と「苦痛」しかない音楽がポップの真下には存在していて、その真下にある音が掻き混ぜられた瞬間に恐ろしいほど自分の耳に恍惚なまでの快感を与えてくれる時があるのだ。臓器が彩られたジャケットのイメージはそのままに、聴く者の“本当に闇”を露出させるようなインダストリアル体験を是非経験してみてほしい。良さを求めるな、自らの苦痛すら楽しめ。

"怖いもの見たさ"に訴えかけてみる~NYの美女、Pharmakonを掘り下げて~ - out-focus

【No.18】Lykke Li - I Never Learn

I Never Learn

スウェーデン出身の彼女が現在拠点とするロサンゼルスからインスピレーションを受け制作された3rdアルバムは、1st, 2ndから続く3部作の最終章であり、失恋や人生観などのテーマを健やかなメロディーと力強いパーカッションを軸に歌い上げている。彼女自身も”パワーバラード”と形容するように、内面で沸々と燃え上がる愛情や熱情をバラードでたっぷりと聴かせてくれる。アップルによる無料配布で話題を呼んだU2Songs Of Innocence』にもヴォーカル参加していたことも、今年の彼女を語る上では外せないトピックだろう。4月に日本公開されたレア・セドゥ、アデル・エグザルコプラロス主演の『アデル、ブルーは熱い色』の劇中でも「I Follow Rivers」(2nd『Wounded Rhymes/Youth Novels』収録)が使用されているように、視覚的で絵画的な魅力を彼女の音楽からは感じられるはず。ルーブル美術館に行かなきゃモナリザは見れないが、音楽のモナリザは確かにここにいる。

 

【No.17】18+ - Trust

トラスト

Arcaを筆頭に去年ネット上にミックステープをアップし注目を浴びたトラックメイカー、もしくはシンガーはその大半がレーベル契約を果たし、大手メジャーからフィジカルリリースするまでに至る。この波に『M1XTAPE』『MIXTA2E』『MIXTAP3』という3本のフリー音源を公開した18+も例外なく乗り、そこから厳選されたトラックで構築された『Trust』はもはや「ネット発」というフレーズなしで語られるべきモノだろう。確かにネット上で散らばったファイル音源から自分たちの使いやすい部分を選定し、白と黒のみでトラックを彩る。そこに無機質で無表情なSamia MirzaとJustin Swinburneのヴォーカルが乗るわけだ。インディーR&Bというジャンルではなく呼びやすい言葉に惑わされて「これがインディーのR&Bか」と思い込み人もいるだろうが、これがFabric傘下のHoundstoothからリリースされたことも然り、実は幅の広いベースミュージックであることを知っていてほしい。カラスの鳴き声<Crow>から典型的なヒップホップトラック<Forgiven>、それこそスタンダードなモノクロR&BAll The Time>まで、ネットから拾っただけでは作り得ない新たなベクトルを持ったR&B作品だと思う。

 

【No.16】FKA twigs - LP1

LP1

tofubeatsは「『FKA twigsになりたいです!』」って女の子が表れないのは、時代として問題があると思うわけです(笑)」と話していたが(「“ネット発”みたいに十把一絡げにされてるのは面白くない」tofubeatsが明かす“発信を続ける理由” - Real Sound)、これは“妖艶でミステリアスな存在”が出てきてほしいという意味よりは、”世界規模で注目を浴びているアイコンに憧れを抱き、この日本でもそういう世界のムーブメントが同時期にマジョリティなモノになればいい”と言いたいのかな?と勝手に捉えている。ターリア・バーネットことFKA twigsはLordeTalyr Swiftと同じ時間軸を進んでいながら、ネットやTVに区別されるスターとは気色の異なる空間を自らで作り出している。それがArcaやDev Hynesなどのプロデュースが話題の種となろうが、咲いた花の美しさは紛れもなく彼女自身の魅力で表現されている。確かに『トワイライト』シリーズで有名な英国俳優のロバート・パティンソンRobert Pattinson)と交際している事実が少しイメージを歪ませてしまうが、多才な生き血によってその魅惑的な声を活かしたハイライトトラック<Two Week>などを聴けば、きっとtofubeatsが嘆いた言葉に真意を探りたくなるはず。

 

【No.15】Sally Seltmann - Hey Daydreamer

HEY DAYDREAMER

彼女を知らない人もFeist1234>の共作者(正しくは原曲の作曲者ではある)と言えば興味が湧くのではないか。2001年にNew Buffalo名義でデビューし、その後2010年に本名であるSally Seltmannで『Heart That's Pounding』から数えれば実に4年振りの実名作品である(2011年に”Keeper Lover Seeler”名義でのリリースはあった)。サキソフォン、オルガン、ハープ、ペダルスチールなども率いたチェンバーポップ、レトロフォークを基軸にしたその音楽性は、どのタイミングで聴こうが人に流されることなく、時間にも風化されることのない、永遠のオーガニックメロディーとなって今も新鮮に響いている。春頃に発売された印象からか、年末に聴くと桜の色や青葉の香りが思い出される…

 

【No.14】Foo Fighters - Sonic Highways

Sonic Highways

アメリカンロック史を8つの都市、8人のゲストアーティスト、8つの曲で辿り、そしてたどり着いた結成20周年の到達点。その頂きまでの道のりは険しく、というより谷底から歩み始めたこのバンドは、Dave Grohlにとってどうしても振りかえざるを得ないNirvanaという巨大な呪いがあった。でもそんなNirvanaという大きな呪印が、今作でようやく解かれたと言っていいほど、今作は爽快で、曇り一つない快晴が想像できる。各レコーディング地とゲストは以下の通り。デイヴが綴ったアメリカ音楽への恋文は、胸も眼も熱くなる力作だ。因みにDaveはSlipknotCorey Taylorらと共にTeenage Time Killerなる新バンドを結成し来年にアルバムリリースを控えている。
・M1:シカゴ/Rick Nielsen (Cheap Trick)
・M2:ワシントンD.C/Pete Stahl, Skeeter Thompson(Scream)
・M3:ナッシュビルZac Brown Band
・M4:オースティン/Gary Clark, Jr.
・M5:ハリウッド/Joe Walsh(Eagles)
・M6:ニューオーリンズ/Preservation Hall Jazz Band
・M7:シアトル/Ben Gibbard(Death Cab for Cutie)
・M8:ニューヨーク/Tony Visconti, Kristeen young

 

【No.13】Clipping - CLIPPING

CLPPNG [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (TRCP163)

去年はDeath Grips、Arca、Kanye West等のインダストリアルとヒップホップの邂逅を楽しんだ一年で、その中にはClippingによる『Midcity』も含まれていた。高速で繰り出されるDavved DiggsによるラップをJonathan Snipes、William Hutsonのドメスティックでディスコードギリギリのトラックがより異質なものへとスライドさせていく。アルバム冒頭の<Intro>からサイン波とDiggの高速ラップのみで始まり、そこからLAのフィメールラッパーCocc Pistol Cree、King T、Da Mafia 6ixの一員でもあるGangsta BooMariel Jacodaベイエリアの重鎮Guce、SoundHackというファイル変換ソフトの開発エンジニアTom Erbeといった客演がサンプリングや硬質なエフェクト以外の部分でClippingのアルバムをより一筋縄ではいかないよう演出している。最近では「Som something they don't know b/w mouth」というフリーEPも発表。インスト/アカペラも収録されたこれまたトリッキーな傑作だ。

【No.12】A Sunny Day In Glasgow - Sea When Absent

Sea When Absent

グラスゴーではなくフィラデルフィアのバンド。ドリームポップ、ファジーポップ、エレクトロニカ、ニューゲイズと雑多な音楽性をトラック毎に整理する力は、2000年代前半からのアメリカインディーにおける分析処理能力の高さを物語る上で必要不可欠な部分だと思う。Jaff Zeigler(The War On Drugsなど)がプロデュースを担当し、バンドとして初のスタジオレコーディング作となるだけにバンドアンサンブルの妙が過去作以上にフックアップされている。合わせて聴きたいのはThe Pains Of Being Pure At Heartの新作『DAYS OF ABANDON (』で、A Sunny~のヴォーカルJen Gomaが参加している点においてもチェックしておきたい。今なら彼女が参加した未収録曲<Poison Touch>なども収録されたデラックス盤が買い時。もしくは新曲のみのEPも良し。A Sunny~は先日クリスマスに合わせてリリースされた5曲入りカセットEP『Sketch for Winter Ⅰ:New Christmas Classics』も好評で、夏にも冬にもシーズンミュージックを届けてくれる彼らに、寒暖差の激しい今年は大変助けてもらいました。

 

【No.11】SBTRKT - Wonder Where We Land

ワンダー・ウェア・ウィー・ランド

デビュー作『SBTRKT』(2011)がJames Blakeとほぼ同タイミングでリリースされたことで、ポスト・ダブステップの潮流に巻き込まれがちだが、実際はもっとエクスペリエンスな素養の持ち主で、複雑に絡み合ったドローン、アンビエントR&Bなどのトラックメイクが彼の魅力である。その魅力は今年リリースされたどの作品よりも客演がカラフルであり、Young TurkのレーベルメイトであるSamphaKorelessはもちろん、新作『Tough Love』も素晴らしかったJessie Ware、ジャマイカ出身でロンドンを拠点とする新生フィメールラッパーDenai Moore、さらに18歳でコロンビアと契約しKanye Westも注目するRaury(彼のデビュー作『Indigo Child』はアルバム公式サイトのゲームで1500点以上獲得すると無料でダウンロードできる)、Caroline Polachek(Chairlift)、Ezra Koenig(Vampire Weekend)といった2014年新作や話題作に欠かせない存在を次々にフィーチャーしている。SBTRKTがアップライトピアノで制作した<Voices In My Head>ではWarpaintStella Mozgawaがドラム、Emily Kokalがヴォーカル/ギターでアクティブな味付けを行い、A$AP Fergの濃厚なライムがムーディーでパンチのあるラストを堂々と飾っている。こんなにも豪華絢爛でありながらSBTRKT、実名であるAaron Jeromeのアイデンティティは実にブレがない。アートワークの芸術性も含め、オシャレなインテリアからターンテーブル上の一枚としても機能する作品。

 

 《10→4へ続く》