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音楽について

2014<MY BEST ALBUM 20> ~10→4~

【No.10】Jack White - Lazarretto

Lazaretto

アナログレコード復権の立役者でありながら自主レーベルThird Man Recordを通じてのバックカタログのリリース、そしてレーベル内のバンドのプロデュースワークに加えて大型フェスでのヘッドライナーにと本当に大忙しだったジャック。決して実験的な作品ではないし、The White StripesThe Raconteurs等の楽曲との差別化もこれといって見られない。ただ、ブリティッシュプログレッシブロックニューオーリンズ周辺のジャズ史なども頭に入っている彼の脳内が透けて見えそうなほど、自らのミュージックルーツをサウンドやアレンジに反映させているのが分かる。ストライプス時代のイメージカラーであった赤を捨て、当時の自分がまた別の温度で流れ戻る静脈の青を今作では見事に着こなしている。因みにアナログ盤は「Ultra LP」という最新のギミックをこれでもかと仕込んだパッケージになっており(詳しくはジャック・ホワイト、新アルバム「Lazaretto」でホログラムが見えるアナログレコード「Ultra LP」を開発 | All Digital Music)、これからレコードを楽しみたいという人にオススメ。ライヴ面では6/14に行われたBonnaroo FestivalでのベストオブベストなパフォーマンスがPC越しに今でも強い印象として残っている。来たれ、日本! 

 

【No.9】Death Grips - niggas on the moon

 去年『Government Plates』をリリースし、同作を伴ったツアーやフェス出演も非常に事件性高い出来事として受け止められた。そんなDeath Gripsは7/2に突如解散を発表。ナプキンに書いた解散声明文を自身のFBに投稿した。「今現在が最高の状態である。だから終わる。」という内容には何か彼ららしい予定調和に縛られないスタイルが強く反映されている。解散はしたものの新作『the power that b』は2015年初頭にはリリースされることがアナウンスされているが、2枚組である同作の前半部『niggas on the moon』はBjorkのヴォーカル素材をサンプリングしたインダストリアルノイズ、ハードコアな内容となっている。フロア志向な低音を無視した乱暴な変則トラックと高速BPMがリスナーを決して許されることのない破壊と構築の世界へと引きずり込む。後半部『Jenny Death』の全貌は未だ明かされていないが、そこに収録される<Inanimate Sensation>が現在公開されているので、もうしばし正式なアナウンスを待とう。(と、色々調べてるとHMVでは”2015年2月25日”の発売日が記載されている)

【No.8】Beck - Morning Phase

Morning Phase

Danger Mouseプロデュースの『Modern Guilt』から6年。その間ここではまとめきれないほどのコラボレーションやプロデュースワークを行ってきていて。それに関してはここで([FEATURE] Six Years Of Beck:『Morning Phase』までのベックの6年間 | Monchicon!)。今作では名盤『Sea Change』をレコーディングした面子が再び結集され、様々なメディアでは“『Sea Change』への12年振りの回答”なんて触れ込みが目立っていた。この数年間で脊椎を痛めてギターを弾くことが困難だったとインタビューで述べていただけに、今までに溜まった音楽でのフラストレーションもこの期間にデトックスされたのだろう。それはアコースティックで澄んだ山清水の如く爪弾かれる素朴なメロディーとシンプルなトラックタイトルにも表れている。今年は『Song Reader』なる2012年から始めた自身の新曲を楽譜でリリースするプロジェクトを仲間と共にパッケージ化した。またスターバックスHear Musicによるコンピレーション企画『Sweetheart 2014』にも参加し、John Lennonの<Love>をカバーしている。来年には噂されるPharrell Williamsなどが参加した新作も早いうちにお目にかかれるのだろうか?

【No.7】Jenny Lewis - The Voyager

Voyager

子役タレントとしての活躍を経てRilo Kileyで米インディー界の最注目株になり、その後は女優業とシンガーソングライターを並行して行ってきたJenny Lewisの6年振りの帰還は、BeckRyan Adams、Jonathan Riceらが楽曲プロデュースに関わり、彼女自身のソングライティングとナチュラリズムの限界点を見事に更新してみせた。元々Elvis Costelloなどとの共演歴などを持つだけに、Zooey Deschanel (She&Him)などに見る二物以上を与えられた存在としてもう少し日本でもポピュラーに知られてもいいはず。今作は前作以上にビートやリズムに弾きがあり、彼女のヴォーカルも比較的ポジティブな方向性を感じさせる。ブルースや西海岸風のギターフレーズを随所にちりばめた楽曲が多く、女性シンガソングライターの温故知新を体現しながら自らの成長と経験を作品に反映させる、職人技とも言えそうなプロセスに賛辞を。

 

【No.6】Flying Lotus - You're Dead

You're Dead! [輸入盤CD] (WARPCD256)_005

Flying Lotusとジャズ。それらについて語るよりは彼の死生観に関するインタビューや今作における制作アプローチを読み解くことで、今作を多角的に、己の耳よりもその心眼で衝撃を体感することができるはずだ。彼の現代ジャズに対するアナーキズムな姿勢や、超細分化された音楽における批評家や芸術家などの不明確なタグ付けに及ぶまでの反論などを考えると、『You’re Dead』の言葉通り、死後の世界のスピリチュアルな世界にこそ彼の思い描く「現代で表現しなければならない音」があったのかもしれない。膨大な情報量を瞬く間に回想するかのように各トラックの尺は短く、それでいて昨今のポータブルプレイヤーのシャッフルビート機能を皮肉るように曲間を排除したフォーマット。今作ではその「死生観」や「死後」という精神面でのコンセプトと特に共振した盟友Thundercatに加え、Angel Deradoorian、Niki RandaSnoop DoggKendrick Lamar、Flylo自身の別名義Captain Murphyらがヴォーカルを取り、Herbie Hancock、Brandon Coleman、Deantoni ParksMiguel Atwood FergusonKamasi Washington、Tundercatの実兄Ronald Brunerなど、凄腕のプレーヤー陣が個別にレコーディングしそのトラック素材をロータス自身が組み立てていくという、彼の非常に優れたプランニング能力が冴え渡ったアルバムでもある。ド派手な仕掛けで目を引くのではなく、音の一粒一粒にこのアルバムを紐解くスピリットが潜んでいることから、この作品を起点に再び音楽における新たな文脈と人脈のクロスオーバーが起こるだろうと確信している。

 

【No.5】Swans - To Be Kind

To Be Kind [帯解説・歌詞対訳 / 2CD + 1DVD / 国内盤] (TRCP158~160)

Flying Lotusで“膨大な情報量を瞬く間に回想するかのように各トラックの尺は短く、それでいて昨今のポータブルプレイヤーのシャッフルビート機能を皮肉るように曲間を排除したフォーマット”と述べたが、このSwansの新作は“必要最小限の音でひたすらループされていくように各楽曲の尺は長く、ポータブルプレイヤーどころかレコードプレイヤーすら嘲笑うような2枚組約2時間のフォーマット”と例えるに相応しい作品だ。オルタナティブという言葉は不鮮明で、特にロックにおいてはカテゴライズしづらい音楽やバンドを評する際に都合よく使われる「逃げの単語」だと思っているが、今回のSwansには確かにオルタナティブアルバムとしての敬称が相応しいかもしれない。新たにMUTEと契約したこと、フロントマンであり舵を握るMichael Giraの卓越したスタジオワークとメンバーのセッションから生まれる生き血の通った展開の読めないグルーヴがここに爆発した。前作『The Seer』も同じフォーマットの下で制作されたとはいえ、この『To Be Kind』ではさらに猟奇性を強め、アグレッシブなパフォーマンスが目に浮かぶような生々しさが内在している。約34分にも及ぶ<Bring The Sun / Toussaint L'Ouverture>をとっても、リスナーが試聴器やストリーミングのみでその作品を評価する昨今のスピーディーなリスニング環境に異を唱えてもいて、この2時間に及ぶ禅問答のような修行を終えた時、壮大な地に降り立った白鳥のその美しさを堪能することができる。バックヴォーカルとしてSt. VincentCold Specks、Little Annieらが参加している。

 

【No.4】SloanCommonwealth

Commonwealth

トランプをコンセプトにダイヤ、ハート、クローバー、スペードのマーク毎に4人それぞれが作詞作曲を行ったアルバムだ。M1~5までのダイヤパートをJay Ferguson、M6~10までをChris Murphyが手掛けるハートパート、クローバーをPatrick PentlandがM11~14までを担当し、ラストのスペードM15をAndrew Scottがそれぞれ担当している。当初は得枚組レコードでA/B面で各メンバーがソングライティングする予定だったらしいが、これはこれで聴きやすい点に今回のトラックリストがベストだったように思う。サイケ色の強いJay、伝統的なカナディアンロックやピアノが美しいバラードナンバーまでを現するChris、パンクやガレージ色など好みがハッキリと音に表れたPatrick、17分もの長尺で、それこそ組曲のようにこの1枚を総括する、まさに切り札(=スペード)としてピッタリなAndrewと通して聴いても良し、もしくは各パートの違いを味わうも良しと解釈はまさにトランプのようにシャッフルしても遊べるものになっている。20年以上のベテランがコンセプチュアルでさらにソングライターとしても4人が高みを目指し合うその良質な関係性を羨ましく思う。単純にポップな彼らが大好きなんだけどね。

 

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