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音楽について

2014<MY BEST ALBUM 20> ~No.1~

【No.1】Sharon Van Etten - Are We There

Are We There

各面で絶賛の嵐となっているSharonの新作には、もう自分も絶賛せざるを得ないほど繰り返し再生ボタンを押させられた。この彼女に人生におけるポートフォリオの結晶とも呼べそうな『Are We There』はある意味で今年リリースされたどの作品よりもサイケデリックでカオティックであると言える。

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ニュージャージーで生まれブルックリンを拠点に活動している彼女は2009年の『Because I Was in Love』で陽の目を見る。前作『Tramp』(2012)ではThe NationalのAaron Dessnerがプロデュースしただけあり(共同でThomas bartlettも参加)、ブルックリン界隈の賑やかな面子(Jenn Wasner < Wye Oak>, Zach Condon<Beirut>, Matt Barrick<The Walkmen>, Julianna Barwickなど)が参加し、実に聴きごたえのある作品でもあった。その反動として今作ではセルフプロデュースに至ったわけだが(それについての彼女のインタビューはコチラで→)、改めて崇め奉られるような立場ではなく、自らのソングライティングとヒューマンルーツを確かめるようにニュージャージーのStewart Lerman所有のスタジオに篭って制作されたからか、非常に不安定な心情吐露と、恋愛や人間関係における禅問答が歌には数多く記されている。もちろんゲストミュージシャンも参加してはいるが(Adam Granduciel<The War On Drugs>, Peter Broderrick, Jonathan Meiburg<Shearwater>, Jana Hunter<Lower Dens>など)、それは彼女自身が今まで世界各地をツアーで旅してきたことにより知り合った才能たちで、決して誰かの才能の下に集った人々とその才能を介して通じ合ったのではなく、Sharon Van Ettenという才能に惚れ込んだミュージシャンが純粋に彼女の下に集まったのだ。だからこそストレスなく、思い描いた曲の構造通りの音が忠実に再現されたのだろう。そんな過程を物語る上で、今作ではSharon自身のヴォーカルにも深みと熟成を感じることができる。今年33歳となって女性としても円熟味を増してきた証でもあるだろうが、そういった年月を重ねたからこそ人生観などを楽曲の背景にプリントすることができたのかもしれない。

楽曲単位で語るならば<Taking Chances><Our Love>などが以上のゲスト陣の色とSharon自身の紛い物ではないソングライティング能力の絶妙な融合を垣間見ることができる。また<I Love You But I'm Lost>では自身でドラムとピアノを担当し(この曲と<I Know>で使用されたピアノが『Horses』で用いたものらしい)、初期の頃では当たり前だったマルチプレイヤーとしての一面も未だ健在なことがわかる。

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2014年はAngel Olsen, Lykki Li, St. Vincent, Sally Seltmann, Lily Allen, La Sera, tUnE-yArDs, Lana Del Rey, FKA twigs, Jenny Lewis, Karen O, Hello Saferide, BANKS,
Jessie Ware, Taylor Swiftと女性ソロアーティストが相変わらず活躍した年と言えた。ここに挙げたのはほんの一握りだが、やはり世の中がネガティブなムードに包まれる度に顔を上げ、胸を張り、その手に武器を取り、マイナスなモノと対峙していくのは男性ではなく女性なのだと、今年の自分のプレイリストを眺めていて思った。でもSharon Van Ettenはマイナス要素はマイナスとして、プラス要素はプラスとしてハッキリと人ひとりの身体に生じる生理現象を偽りなく音楽に記載している。素顔でデビューし、一時期はメイクアップによる変化を魅せたSharonの音楽的容姿も、セルフプロデュースという手鏡で確認することで改めてムダな化粧をそぎ落としたナチュラルメイクを確立し、素顔に近い、新たな美しさを纏った音楽として更新された。そんな熟れた彼女の顔(音楽)に、ただただ魅せられてしまった一年でした…