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音楽について

TopicUp Vol.2

01. 春めくアイドルの勝負曲(AKB, 乃木坂, 欅坂)

アイドル、と窓口を広く取るとキリがないので代表的なものについてのみ取り上げます 笑。

3月から4月にかけては卒業・入学シーズンということで、別れや出会いなどをテーマにした楽曲が数多くリリースされました。ことアイドルにおいてもその伝統的なテーマは健在で、むしろアイドルグループにとっては1つの象徴として機能している点もあります(進路や進学に向けての卒業など)。

AKB48, 乃木坂46, 欅坂46の3グループの最新曲は各グループカラーと強み、グループもしくは個人の次なるステップへの布石としての役割も担っています。

AKB48 - 君はメロディー

アイドル、かくしてAKB48に限って言えば今現在のアイドル像やジャンルを拡張した存在として運営方針やスキャンダルに至るまで、芸能面での効力も自ずと楽曲や評価に加味されていきます。もちろん、それらと絡めることでヒットした曲もあるし、「恋するフォーチュンクッキー」というお茶の間に着地することで得た新たなパブリックイメージもAKBでしか成し得られなかった成功論だと思う。10周年記念シングルであり春ソングとして位置付けられた今曲は新世代のセンターとして宮脇咲良を中心に据え、過去の卒業メンバーも参加したアニバーサリーシングル。自分は嫌いじゃないです、こういうベターオブベターな演出と設定。日本人が好む王道のコード進行とこれまた直球な歌詞。奇をてらうことなく「王道な時はどこまでも王道に」と言わんばかりの今作におけるAKBブランドの強さを表してます。

その反面、次世代へのバトンタッチがグループ課題となっているAKBにとっては”ベター過ぎた”と言い変えれる。カップリングには各姉妹グループの新曲、NGT48や乃木坂46とのコラボーレーションがあり、一種の沈黙とタブーを破ろうとする醍醐味はあるものの、AKB単体の未来を延命させるような事象とは言えない。今回に限ってはアニバーサリー感が全面に押し出てる分、その他の要素もそれに対する付加価値として解釈できるだろう。

改めて前田敦子大島優子は華があるなぁ...表情も良いですよね。

 

乃木坂46 - ハルジオンが咲く頃

AKB48が祝祭感に包まれて原点回帰&新世代を主張するタイミングで公式ライバルという当初のパブリックイメージは既にどこ吹く風。 乃木坂ブランドは昨年の紅白初出場を気に国民レベルで認知されることになったし、メンバー個人個人における活動がグループ全体のオリジナリティーをさらに唯一無二なものにしている。

そんな彼女たちにとっての春ソングは「卒業」を裏テーマとし、むしろ「門出を祝う」ために書かれた曲だ。グループ創設から在籍し、年長者としてまさに”乃木坂の母(聖母)”の名に偽りのない存在だった深川麻衣の卒業シングルという点において、これほどふさわしい曲はない。曲の中で深川自身の卒業について言及した部分はないが、他のメンバーが初聴時に感じたという深川麻衣の姿が、まさにこの曲を象徴する感想として適切だと思う(乃木坂46北野日奈子と寺田蘭世が明かす、“アイドルの楽しさ”と“3期生募集への焦り” リアルサウンド)。

乃木坂46の作品に付随するコンテンツとして毎回重要なファクターとなるのが映像である。MVを筆頭に個人MVなどがそれに当たるが、写真などの刹那を収めるというよりは動く姿をドキュメンタリーなビジュアルとして撮ることで、アイドル(虚像)と女性(実像)をクロスオーバーさせ様々な解釈を可能にしてきた。今回初めて女性監督(山戸結希)を起用したMVを一聴すれば、改めてその演出と現実に涙すること間違い無しだ。自分も初めて見た時は込み上げてくるものがあったし、ラストシーンに至るまで後ろめたさも後悔も全く感じさせない作りに思わず「これはズルい!」とうなってしまった 笑。

しかしながら、そこは秋元康だ。過去のしがらみや苦悩を感じさせない体でありながら、過去についてはむしろ表題として大きく取り上げている。春に咲く白と黄色が特徴のハルジオンの花。その花言葉が《追想の愛》である。《過去思い、偲ぶこと》を意味する花言葉は、深川麻衣が卒業後に抱くであろう感情を先読みし代弁しているかのよう。そこも踏まえて改めてMVを見返すと、これまた涙腺が崩壊してしまうのでご注意を。

ジャケットでは他のメンバーがカメラに目を合わせ前を向いているの対し、青空を背景に横を向き別の景色を見ている深川麻衣。まさにこれから違う世界を見ることになる彼女と、それでも前を向いていく他のメンバーを連想させる素晴らしいデザインだ。しかし、深川自身もまっすぐな目と微笑みを携えて前を向いているのがわかる。どう受け取るかはリスナーやファン次第だと思うが、乃木坂46というグループ単位での総意を理解することで、きっとこの曲を聴き返すたびに華々しい気持ちを思い起こすことができるだろう。

最後に深川麻衣自身の今作における言葉も合わせて。

realsound.jp

欅坂46 - サイレントマジョリティ

平手友梨奈

模範でもモデルでも、ましてや王道を行くセンターでもない。「規律」と「統制」を旗に行進する新たな隊を牽引するは若干14歳の少女と言うから驚きだ。

乃木坂46を始めとした"坂道シリーズ"の次なる道が彼女たち欅坂46。元々は〈鳥居坂46〉としてスタートした企画が後に変更になる事も話題性があった。コマーシャルの仕方も乃木坂46をモチーフにしており、冠番組やイベントへの参加などで着実にファンの地盤を固めていった反面、グループとしての特色に関しては少し希薄な印象として世間に認知されていたと思う。

自分は彼女たちを「お見立て会」以前から見させていただいていたけど、その頃とこのシングルの彼女たちの顔を比較した時のギャップと言ったら...人は自覚することで化けるんですね。すごいです。

その中でセンターを務め、実際にグループを牽引する平手友梨奈の存在は稀有のようで実は現代的、2016年的とも言える。「アイドルであること」を自覚しているアイドルは山ほどいるが、「アイドルであることを自覚している」ことを自覚している人、なおかつそれをファイティングポーズとしてセンターで構えられる人は早々いないと思う。

確かに多方面で言われている通り、前田敦子とも生駒里奈とも違う。でも、それら比較対象がいたからこその稀有さであることは疑いようもない事実で。

 

 以上3組以外にもこの春聴いてときめいたものも一緒に紹介しておきます。

Negicco - 矛盾、はじめました

乙女新党 - 雨と涙と乙女とたい焼き

清竜人25 -LOVE&WIFE&PEACE♡

夢みるアドレセンス -ファンタスティックパレード / おしえてシュレディンガー

callme - Can not change nothing

ミライスカート - 千年少女~Tin Ton de Schon〜

上記の中でも乙女新党はピカイチで良かった。クリエイター陣(作詞:高橋久美子 作曲:日高央 編曲:ヤマモトショウ・rionos)という布陣がそれぞれの仕事で200点満点出したような出来栄え。乙女新党と楽曲自体の相性も申し分ない。

 

02.  ギターを歪ますビートメイカー:ROM

R&Bやソウル、新進気鋭かつ伝統的なビートミュージックをクリエイトするアーティストをピックアップしフォローするネットレーベルSOULETIONから新たにバーミンガム出身で現在ロンドンにて活動する19歳のROMが登場。9歳からギターで楽曲制作を始めた若きトラックメイカーの音楽は00年代に彼が影響を受けたというR&Bやジャズがインスピレーションの源となっているらしい。

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特筆すべきはM2:「You Love Em (feat. Emmavie)」だろう。ロンドンのフェメールシンガーEmmavieをゲストに迎えたこの曲に漂う年齢を度返しにした伝統のジャズ/ソウルをアップデートする才能には心底驚かされた。Erykah Baduの地脈をたどるEmmavieのヴォーカルにも注目しておいて損はないだろう。ちなみにEmmavie自身が2013年にリリースした『L​+​VEHATER』は今なおnyp形式でダウンロード可能。今年になってトラップを基調とした新曲「BOOM」も発表してる。

M3:「ONE MORE」では彼と同じく19歳のトラックメイカDEFFIEとコラボ。昨年10月には連名作R.O.M+DEFFIE名義で『ENTROPY EP』をリリースしており、すでにその相性は阿吽の域に達している。

スウィートなギターから始まり、DEFFIEの特徴的なバウンシー溢れるハウスサウンドが見事に調和している。彼自身の音源も以下にてnypで入手できる。

冒頭ではトラックメイカーとして彼を表記したが、音源を聴き、周囲に気を配るとどうやらギタリストとしての本質こそがROM本来に魅力と言っていい。どのトラックでも有機的に機能する彼のギターはR&Bやジャズを咀嚼し始めたJeff Beckのような哀愁さも醸し出している。

説明が多少長くなったが以下にて試聴とフリーダウンロードが可能。2016年マストでチェックしておくべしかと。

 ダウンロードサイト

《追記》

同じくSoulection所属のプロデューサーIAMNOBODI の新たなEP『Imani』にもROM, Emmavieらが参加。こちらもGOODな作品。

※6月には来日もするそう