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音楽について

Fashion Music〜堂本剛のミラノコレクション参加について思うこと

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 9/21〜27の6日間、イタリアはミラノで開催されている〈Milan Fashion Week〉。

 

一般的に有名なパリコレクション、いわゆるパリコレの直前に行われるミラノコレクションは、パリコレ同様世界5大コレクション(開催順にロンドン、ニューヨーク、ミラノ、パリ、東京)の1つに数えられている。あまりファッションに関しての教養がない分、詳しい言及はしないが、そんな自分でも5大コレクションの名とその規模の大きさは把握できる。

なぜこんな説明をしているのかといえば、24日の朝、このツイートを見たことが引き金になっている。

 

 現地時間23日の夜に行われたAtsushi Nakashimaのコレクションにて、堂本剛が音楽監修を務めたというニュース。ツイッターではジャニーズファン、音楽好きを中心に拡散され、大きな話題となっていた。確かにすごい。思わず自分もつらつらと書きたいことを書いてしまうぐらいに。 

www.fashionsnap.com

 

ジャニーズという看板が大きな話題をさらに加速させていることは重々承知しているが、自分は純粋に彼が手掛けたその音楽のアプローチに興味が湧いた。

2012年に発表された『shamanippon -ラカチノトヒ』から彼はエレクトロニカの要素を本格的に導入し、それまでSly & The Family StoneやPrinceをベースにしたファンクバンドやポップスターのサウンドを、彼なりのエンタメ解釈と合わせて大きく更新させたのだ。

過去や周囲の影響を咀嚼し、アップデートすることで自身のオリジナリティを獲得することをパクリや模倣といって揶揄する傾向が日本にはある。しかし、彼の場合はジャニーズという前提からして過去をアップデートすること、それが許されてもいる存在だと受け取るべきではないか(ジャニーズは歌い継ぐ伝統がある)。「〜っぽい」などと言われ続けてきた彼が、この監修した音については間違いなく「堂本剛の音楽」を獲得している。それは素直に喜ぶべきだろう。

そして一番関心したこと。それは彼の生み出した音楽がファッションショーで使用される経緯を踏まえた上で製作された、極めて優れた空間音楽だったということ。音楽が主体となるのではなく、あくまでファッションと共にある音楽としてそこに響き渡ることを、彼はとても良く理解している。その反面、音楽の鳴らない瞬間的な無音も曲の一部として捉えている傾向は、James Blakeの香りも匂わせつつ、久石譲のメロディックな旋律にも縁を引くことができる。

 

他にもミュージシャン×ファッションを象徴するトピックは沢山ある。近しいところで言えば山口一郎サカナクション)× AOKI takamasaがパリコレにてANREALAGEの音楽監修を手掛けたことも、大きな話題となった。

 : ANREALAGE 2016 S/S COLLECTION -sound direction Ichiro Yamaguchi(サカナクション)-

フィールドレコーディングや身近なモノを使い、バイノーラル技術を用いて録音されたミニマムでクラブ志向のトラックは、音楽がファッションと、そしてショーアップされたこの状況と密接に共犯関係にあることを物語っている(※この動画もバイノーラル対応しているのでヘッドフォンなどで体験してみてほしい

 

世界に目を向けてみても音楽とファッションが1つのトレンドとして発信されることがポピュラーであるというべきトピックがある。今年サマーソニックにて来日したRadioheadのフロントマンThom Yorkeも、先日Rag & Boneのコレクションにて音楽監修を務めたばかりだ。

: Rag & Bone Spring/Summer 2017

 約10分強に及ぶサウンドはThom自身の声と限られたエフェクトが幾重にもレイヤー状に敷き詰められている。音は空気を伝わり、その振動波の大きさと長さで私たちは分別しているが、Thomの手掛けたアンビエントサウンドは服にはできない空間の装飾として、波長や波形を緻密にコントロールしている。目立たないが無ければ成立しない、自分にはそんな相互作用がこの映像からは伝わってくる。

 

奇抜な造形を特徴としているNYのストリートブランドHood by Airは去年に引き続き、ロンドンの若きトラックメイカー/プロデューサーであるArcaをNYコレクションにて起用。独創的なデザイン同様、Arcaもまた近代音楽の中で発明的なインダストリアルサウンドを創造している。

: Hood by Air | Spring Summer 2017 Full Fashion Show | Exclusive

 最近ではBjorkのアルバムプロデュースを手掛け、彼女のライブステージにおいてもオーケストラ隊を監督し、自身もラップトップにてプログラミングを行っているArca。他にもFKA twigs, Kanye Westなどにトラック提供している彼は、おそらく常に空間的な音のアウトプットを意識してクリエイティブしているのかもしれない。ビートレスで切り刻まれる小節とコードからサティのような柔らかいピアノの音色まで、人に見せられない領域を見せることで生まれるエモーショナルな瞬間を、Arcaは切り取り、ファッションというカテゴリに貼り付けている。

 

 

世界でも日本でも、いまミュージシャン・音楽家と呼ばれる人たちが他のカルチャーとメディアミックスを起こす現象が巻き起こっている。

顕著なのは映画と音楽で、RADWIMPSと『君の名。』における盛り上がりなどは社会現象と呼ぶにふさわしいトピックだろう。

realsound.jp

 

そしてやはり忘れてならないのはリオオリンピック/パラリンピック閉会式における「トーキョーショー」。 

堂本剛も敬愛する椎名林檎が監修したこの一連のショーは、音楽やダンス、テクノロジー、あらゆる要素がオリンピックの一部、東京の一部として成立している。自身を芸事を多用して表現する、そのプロデュースする能力に秀でた椎名林檎ならではの明確な4年後への布石だと思う。

 

堂本剛もまた、そんな彼女の伝統と芸能を理詰めで思考する部分を巧みに抽出して咀嚼し、自分なりにアップデートしている。ミラノコレクションの音楽も、奈良、雅楽、ファンク、骨董品、生花、古着など、彼を構成する様々な要素が年月をかけて蓄積し、堂本剛の音楽として結晶化されたにすぎない。この経験が彼にさらなるインスピレーションのアップデートを促しているだろうし、より伝統芸能に寄った、さらに堂本剛のハイブリッドミュージックをもっと聴かせて欲しいと、今はただただ熱望するばかりだ。