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音楽について

PC Music♪と2016年〜変遷するレーベルについて

 

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@PCMusic

インターネット発〜ロンドン経由〜世界行き

2013年に産声をあげたロンドンのインディーレーベル〈PC Music♪〉は、僅か3年というスパンでそのレーベルネームを世界規模のものとした。形容を無視したレーベルカラーと独自のカテゴライズと言わざるを得ないトラックメイカー/プロデューサー/シンガーを数多く有し、グラフィックも合わせた総合的なアートレーベルとも称することができる。新進気鋭のレーベルでありつつ、様々なカルチャーと共犯関係を築いてきたオンリーワンな歴史を持つ。しかし、認知度も上がり確実に特定のエレクトロニカファンを獲得してきたこのレーベルは、実はまだ未成熟であり、現在も発展途上中なのである。

今年その〈PC Music ♪〉が、何やらおかしい。いや、怪しい。

活動領域は守りつつ、何か例年とは異なるレーベルスタンスを築こうと模索しているような動きを見せている。小さな変化も大きな普遍も、今まではインターネットの大海に本体を沈めていたからこそ特異な存在として受け入れられてきたレーベルが、今年その身体をフィジカルな下に晒している。所属するクリエイターの音楽性の変化ではない。〈PC Music ♪〉自体が2016年を意識し、作為的に大きな変遷を試みようとしているのだ。

抽象的な例えが続いたが、具体的に何を持っておかしいのか。なぜ、レーベル単位での変還に思い切ったのか。それらを歴史や事例、変換点も含め、少し考察してみたい。

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レーベル設立者であるA.G.Cookを筆頭に、Danny L HarieSophieらで確立した2014年後半から2015年にネットにてトレンド化した”バブルガムベース”は、たちまち新たなポップミュージックの誕生として大手音楽メディアに取り上げられることとなった。

pitchfork.com

”バブルガムベース”合わせて〈PC Music♪〉流行の下地として、2010〜2013年の間にネットで急速に進化を遂げた"ヴェイパーウェイヴ"の隆盛も、改めて記しておくべきだろう。ヴェイパーウェイヴ自体が形容しにくいカテゴリーだが、アシッドジャズ、チルウェイヴ、ウィッチハウス、AORといったジャンルの音楽をサンプリングし、スクリューやループなどのエフェクトにて個性を出す手法を基本とする。その基本を手本に、個性の部分をクリエイターごとの解釈で拡張した先に”バブルガムベース”がある、と個人的には見立てている。

junji0412.hatenablog.com

togetter.com

時にそれは、ここ日本のジャパニーズポップ、特に80年代をベースとする歌謡曲やCMカルチャーがサンプリングネタとして世界各国のウェイバーたちに好まれ、山下達郎大瀧詠一といった音楽家を新世代に伝える原動力ともなったのである(彼らの再評価はここ数年日本でも同時的に起こったが、またそれとは別のベクトルである)。

山下達郎大瀧詠一が海外で未開拓な音楽としてピックアップされたことで、日本のJ-POP自体にワールドワイドな注目が行くようにもなったとも言える。タイミングを同じくして、偶然にもKaty PerryがTwitter上できゃりーぱみゅぱみゅをお気に入りだとツイートしたことも、音楽も含めた日本のカルチャーが世界的に拡散したトピックと言えるだろう。それらはネットを中心に、ミーハー気質に触れた一過性のものだと騒がれることになるが、Dux ContentSEKAI NO OWARIなどのコラボレーションが違和感なく日本の音楽リスナーに受け入れられたのも、これらインターネットの潮流を単に発する現実とのクロスオーバーが事前に何度も展開されていたことによる結果とも受け取れる。

”ヴェイパーウェイヴ”と”バブルガムベース”の連続性は〈PC Music♪〉の発展に大きく関係し、それは2016年を象徴するあるキーワードともリンクする。しかし、〈PC Music♪〉は今年そのキーワードに対して、意図して逆説的なメソッドを駆使してレーベル運営に当てはめているのだ。それは奇しくもChance The Rapperと似た志向でもあり、つまりは新たなポップミュージックの可能性を探っているのではないか。このキーワードを作用点とした時代に伴う変化こそ、レーベル変還に繋がっていると推測できなくもない。

あるキーワード、それは”フリーダウンロード”というフォーマットである。"ヴェイパーウェイヴ"を筆頭に〈PC Music♪〉がサイトにてアップロードしている”バブルガムベース”の音源は、その音質、ジャンル、アーティストに関係なく、そのほとんどがフリーダウンロードできた。人の生活において、金銭的な優劣が定めたリスナー側の音楽深度など、このフォーマットには全く関係がない。世代も知識も歴史も問わず、ダウンロードして聴いた者がみな等しくシェアできる。もちろん、Bandcampにて自由価格(name your price)を設定しているクリエイターもいる。それでも全体を見通せば、それが有料/無料問わずシェアしたくなるかどうかが一番で、それはChace The Rapperを代表とした質を重視するアーティスト信念と重なり、ひいては産業的な音楽の解体作業に手を貸していることにも、若干リンクしているように思う(Chance The Rapperがレーベルと契約しない理由 - FNMNL (フェノメナル))。

しかし、2016年〈PC Music♪〉はこのフリーダウンロードというフォーマットから抜け出そうとしている。いや、正しくはそれも方法の一つだったと、先に進むためにあえてコンテンツとして昇華し始めた、といった方がいいかもしれない。

それを物語る予兆として、去年レーベルはソニー傘下でもあるコロンビアレコードとパートナーシップを組むことを発表(PC Music Announces ‘Partnership’ With Columbia Records With Danny L Harle EP | SPIN)。これにより、ネットで媒介した多様なミュージックコンテンツとクリエイターがメジャーなフィールドにて活躍しやすくなったのは理解してもらえるだろうが、レーベル単位での変還という意味でも、これはかなり大きなニュースである。

この提携によるファーストアクションとして、中国で絶大な人気を誇る女性ポップシンガーChris Lee (Li Yuchun 李宇春)を主宰であるA.G.Cookがプロデュースすることもアナウンスされる。このニュースは〈PC Music♪〉がアジア圏における東洋音楽との化学反応に未だ意欲的であることを感じさせるとともに、レーベル市場の拡大を匂わせる興味深いアクションでもあった。

それらの布石として、さらに遡ること2014年、A.G.CookはSophieとともに"バブルガムベース"を"バブルガムポップ"へと進化させるため、J-POPの地平すら見渡せそうなハイポップトラック「Hey QT」をリリースしている。

仮想のタイアップを立て、そこにコマーシャルを打つように、キャッチーかつカラフルなバブルガムサウンドは見事ネットの本流からXLという大海に出ることに成功する。炭酸水のように浮かんでは消えるQTの音楽は、Fメジャーのコード感とBPM129のテンポを両手にJ-POPを想起させる音楽として世界的に発信されたのだった。その音楽はネットを外れ、オフラインの影響が強いここ日本でも受け入れられる予感を同時に孕んでいた。現にDiploHudson Mohawkeといった現行のトップクリエイターにも「Hey QT」は刺激的なトラックとして着地している。

そしてこのサウンドに初音ミクを連れていち早く飛びついたのが、フォトジェニックなフィルターを通すまたとないアーティストである安室奈美恵だったということも、何か出来すぎた話ではある。Sophie含め「Hey QT」がいかにアジア圏における〈PC Music♪〉の土壌を整えたかは、ここまで挙げた日本の音楽家たちを思い出してもらえれば一目瞭然だろう。

そして、いよいよ2016年、〈PC Music♪〉はヨーロッパ、アメリカ、アジアのフォールドを席巻するためにポップであることを最前線としたレーベルプランを実行していく。

手始めに2月、既にリミックスを手掛けるなどの接点があったCharli XCXの新章を告げる『Vroom Vroom EP  』をSophieが全面プロデュースする。イギリスにおいてKaty Perryのようなアイドリーでアウトサイダーなアイコンである彼女を、インダストリアルでモノクロームな世界に閉じ込めるそのアンビバレンスなビジュアルメイクは、メディアによって大きく賛否が分かれることとなった。 

だが、今回の主旨でもある”〈PC Music♪〉の変遷”を総括した内容が、賛否両論なこの「Vroom Vroom」のMVにふんだんに盛り込まれているのだ。Charli XCXはもちろん、プロデューサーであるSophie, 一部楽曲ではプロデュースを担当したA.G.Cook、さらにEPに収録された「Paradice」にゲスト参加したHannah Diamond、他にもレーベルを代表するeasyFun, GFOTYといった面々がMV内で踊り弾けている。一瞬だが昨年Sophieがデビュー作をプロデュースしたNYのラッパー:Le1fも写り込んでおり、いわば〈PC Music♪〉がオーガナイズしたレイヴパーティーかのような内容なのだ。

一連のプロジェクトはCharli XCXがメジャーアーティストであることもあり、フリーダウンロードの気配は一切感じない。逆に言えば商業性に特化しながらもレーベルカラーは色濃く塗り付ける、確固たるメジャー志向なプロジェクションが全面に施されているのである。

インターネットがいかに物理的な距離をゼロとしてくれるといっても、ここまでの仕事の大半がロンドンに腰を据え、ネットを利用した活動だった。だが、ネット然の活動からフィジカルなメジャーへと舞台を広げようとしている。そんなメジャーでの活動領域を広めるためには、やはりショービズの本場アメリカに何か楔を打たねばならない。

6月、Red Bull Music Academy主催の下、ロサンゼルスにてレーベルのショーケースが開かれるのだが、ズバリ、そのショータイトルが”POP CITY”。レーベルは細々としたクラスアップを無視し、「Vroom Vroom」をそのままリアルな街へアップデートするという手札をここで切るのである。

www.youtube.com

このショービジュアルの説明に、とても興味深い一節がある。

THE BEGINNING AND END OF BRITPOP AS WE KNOW IT. ENTER THE NIGHTCLUB AND TASTE THE CONFETTI. WELCOME TO POP CITY.

ブリットポップの始まりと終わりを私たちは知っている。ナイトクラブに来て紙吹雪を浴びよう。POP CITYへようこそ

気になるのはブリットポップの意味だが、〈PC Music♪〉を取り巻くクリエイターの多くが90年代前後に生まれていることもあり、リアルタイムでブリットポップを体験した世代とは言い難い。ならばここでのブリットポップとは、純粋に「ブリタニアによるポップカルチャー」と受け取るべきではないか。レーベルにとってアジアでの影響力は申し分ないが、Le1fやMadonnaのリミックスを含め、アメリカでの動きはお世辞にも活発とは言えない。その現状も見越して、ショーケース自体を英国発のユーモラスな現象として捉えてほしい、という意向も、この一節には含まれているような気がする。

ショー当日にはA.G.CookのステージにCharli XCXが登場し、Hannah Diamondも招いて「Paradise」を披露するなど、大いに盛り上がった。

しかし、残念ながらこのショーケースでの一番のサプライズはCharli XCXではなかった。以下、最もエポックメイキングな瞬間の映像である。

映像からも分かる通り、本国カナダはもちろん、アメリカ、そしてここ日本での人気も揺るぎないCarly Rae JepsenがサプライズゲストとしてDanny L Harieのステージにジョインしたのである。

以前からTwitterなどで2人のスタジオ入りは伝えられていたが、その一連の経緯を知った上でも〈PC Music♪〉のLAでのショーケースに、彼女のようなスターが出るとはみな夢にも思わないだろう。

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@DannyLHarie × @CarlyRaeJepsen

その後、正式にコラボレートシングル「Super Natural」をシェア。今までのCarlyではありえないレイヴミュージックに舵を切ったトラップチューンは、〈PC Music♪〉が大西洋を超え、本格的にビルボードチャートへの参入を計画していることが大きくフィーチャーされている。

このアメリカ進出を機に、A.G.Cookの新曲(久々のフリーダウンロード作品)、Felicitaとの正式なレーベル契約、Hannah Diamondのニューリリースなど、様々なトピックがレーベルを中心に活性化していく。バブルガムポップというジャンル/カルチャー自体は米国トレンドに受け入れられたとは言えないが、ヴォーカルにオートチューンやヴォコーダーを配したアナログA.Iな流行も現在見受けられるだけに、2017年以降、〈PC Music♪〉が掲示する未開拓なポップスタンダードがどう転ぶかは、今年の動き次第といったところだろう。


最新情報としてはレーベルが再び原点ロンドンにてショーケースを開くことが伝えられており(12月には同様のショーケースがベルリンでも開催される)、それに伴う新たなコンピレーションアルバムのシェアも決まっている。コンピレーションには上記したCarlyの曲に加え、ここ1年間でレーベル所属のクリエイターが発表した作品が新曲も含め10曲収録されるとのこと。

アジアでの勢力拡大、アメリカ本土への本格的なビジネス進出、その時々のアクションにおけるリアクションがインターネットをメインに〈PC Music♪〉のレーベルカラーを豊かにしてきた。フリーダウンロードをコンテンツとして昇華し、ライブという現実のフィールドに侵食を始めたのは、やはり大きな変化である。ネットの中と現実では需要と供給のバランスが大きく異なるが、現実において世代や年齢における金銭的な差別が音楽産業自体に与える影響は大きい。その分、ネットレーベルとしてオンリーワンなジャンルと才能を囲ってきたレーベルが、その囲いを外し、匿名性を捨て表舞台に続々と進出している2016年は、実像する人や物を共有する時代に突入したと言えるのかもしれない。

スマートフォンの普及やVR技術の発展は、音楽をより感覚的・直感的な体験へと誘う可能性を孕み、それは既に家庭レヴェルで浸透しつつある(i Phone 7やPSVRの発売も2016年の技術革新を物語る重要なポイントである)。〈PC Music♪〉が2016年に大きく舵を切ったその理油は、実際のところ推測の域を出ないが、今まで綴ってきたアクションに基づく考察によって、少なくとも何かしらレーベル方針の転換に踏み切るべきだと感じるタイミングがこの1年間の間にあったではないだろうか。

今年も残すところ約2ヶ月半。11月のコンピレーションとショーケースにおいてどんなパフォーマンスが為されるのかに注目しつつ、その周辺にも気を配っておくこととしよう。

 

そういえば、きゃりーぱみゅぱみゅが11/9にリリース予定のシングルで海外アーティストとのコラボレーションを発表していたが、その中身が気になりますね...(Katy Perry?Sophie?G-Eazy?それとも...)

 ※以下は2年前のきゃりーぱみゅぱみゅワールドツアーの際に行われたSophieとの対談インタビュー 

www.dazeddigital.com

合わせて以下のnoteも

note.mu