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音楽について

『海街diary』を観て

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久方ぶりに自由時間を多く作れたので(?)、観たかった、というより観ておきたかった『海街diary』(原作:吉田秋生、監督/脚本:是枝裕和)を鑑賞。

コミックスを実写化したいわゆる原作モノではあるが、映画を観終わった後に抱いた感触を思い起こせば単に原作モノのそれとは異なり、あくまで是枝作品の1つのランドマークたりえる映画であることに間違いない作品だと感じた。

当初は物語の中心となる4姉妹を綾瀬はるか長澤まさみ夏帆広瀬すずが演じる時点で「おいおい、これは非現実的だな...」と軽く受け取ってしまっていた自分が今はただただ恥ずかしい。配役の妙とはよく言ったもので、各キャラクターが持つ雰囲気を彼女たち1人ひとりが持つポテンシャルと程よくミックスさせては、観ているものに平凡と非凡を同時に味あわせている。これが後に抱く「日常」と「ファンタジー」にも通ずる要素だろうと、この段階で説明しておこう。

 

まずは鑑賞直後につぶやいた感想がこちら。

 ...と、鑑賞直後の自分は感じていたらしいが、これを書いている今はもう少し冷静な立場でこの映画を思い返している。こんなにも雄弁に言葉を零しておきながらなんだが、実はこの映画、感情移入を拒まれた作品なのだ。決して誰かに自分を置き換えるとか、この作品の日常に過去を重ねるとか、いわゆる個人的な思想が拒まれたというわけではない。寧ろあまりにも誰もが経験し、五感で捉え、己を投影しやすい余白がこの映画にはいくつもある。だからこそ入れない、受け付けない、語れない要素が描かれてもおり、それらはカレーや桜のトンネル、梅酒といったコンテンツに置き換えられている。感情は移入できずとも、接点を見つけ、誰かと、もしくは1シーンの刹那と繋がることはできる。そういう意味では日本人による”趣”や”風情”といった言い回しこそ、この『海街diary』に相応しいのかもしれない。

 

"感情移入を拒まれた"と書いたが、まずこの映画は「日常」と「ファンタジー」が巧みに絡み合っている。4姉妹の境遇を軸に、それらを取り巻く人間関係と死生観は、観ているこちら側とリンクしつつもどこか夢心地なフィルターを介しているように見える。それを印象付ける要素として"一度も映し出されない父の存在"が非常に気になる。それは『桐島、部活やめるってよ』などでも見られる相関図の起点となる人物を登場させないことで起こる違和感と類似しているが、それでも『桐島~』と大きく異なる点として、人物の心理描写を言葉や行動以外に、生活アイテムや景色にまで溶け込ませているあたりで人肌にまで抑えられたこの映画の親しみやすいがある。過去を振り返るというより、死んだ父の記憶を取り戻すように、4姉妹、そして彼女たちを囲う小さなコミュニティはめまぐるしくも儚い1年を生きていく。

 

「日常」とはありきたりであり、それでいて「ファンタジー」である。男と向かえる気怠くも幸せな朝。友達以上恋人未満の友人と見る花火。腹違いではあるが姉妹であることを知らせる何気ない仕草や癖。その全てがありふれていて、夢のようにさえ感じる。「日常」と「ファンタジー」はいつ何時同意語となり、反意語にもなり得ることを、この映画はこちらに問いかけてくる。広瀬すず演じる役が浅野すずと同じ名を持つことからも、これがフィクションでありながらノンフィクションと無数の糸で繋がっている事を連想させる。

だからだろう、感情移入を拒まれたことを自分はどこか安心感にも似た感情と受け取ることもできた。こんなにも余白を残しながら繊細に描かれている世界を残酷だとも感じた。そのどちらの感情も同じ世界で起こっている

それでも曖昧なままでこの文を終わらせないためにも、ここでキッパリと明確な意見を述べるなら、やはりそれは呟いた言葉の通り"映画で良かった"に尽きる。勘違いしてほしくないのは決して”良い映画”ではない、ということ。もちろんそう感じたらそれは貴方の感性であり、何ら間違いのない意見だ。下の見る縁側に座る4姉妹の目線が全く異なるモノを指しているように、過去、現在、観客、キャスティング、そして映画というコンテンツによる人の見方の違いを楽しむうえで、これは原作を基にしながらもフィルムに焼き付けられるべき物語だと、改めてここで確信した。

冷静な気持ちで振り返り、ふと脳内に潜るとエンドロールが再びこの作品を見返せと迫ってくる。と、言うことでこれからもう一度あの海の見える街へ…

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以下、『海街diary』に関する多様な解釈。一度観てからでも、まだ観てなくても、人の目を通した景色を想像しながらモノを見るのは非常に愉快なことだ。

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