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音楽について

政治と音楽で考える多様性の罠

柴さんのブログを見て、思わず色々なことを書き殴りたくなったのでここに。

shiba710.hateblo.jp

もうご存知の通り、第64代アメリカ大統領選挙は大方の予想に反し、共和党ドナルド・トランプが対抗のヒラリー・クリントンを破り勝利した。それは、オバマの次の大統領がトランプに決まった、ということでもある。

自分は政治を深く考察できるほど知識はない。一応、選挙権を得た20歳から欠かすことなく選挙に一票を投じてはいる。日本の政治や興味ある国の情勢ぐらいはスマホを介して毎日見ているし、朝と深夜のニュース番組だって流し見程度にはチェックしているつもりだ。

 

On News Zero in Japan shortly!! 😎🎸

#VoteHillaryさん(@ladygaga)が投稿した写真 -

電車の中で経済新聞を読み込んでいる人には到底敵わないが、いわゆる”ゆとり世代”と区分されてきた自分と同じ世代層の人たちは、物理的に遠いアメリカのリーダーの話に日々の時間を削ってまで耳を傾けているのかどうか、自分でも疑心暗鬼になる。

自分は柴さんのブログ同じく「音楽」という切り口において、今回の大統領選の動向を気にしていた。初めから政治についてではなく音楽が動機にあるだけに、自分の政治観みたいなものとは一定の距離をとり、興味深く今回の選挙戦を眺めていた。

そしてもう一つ。今回急にキーボードを打ちたくなった引き金がロッキングオンの羽鳥麻美さんの「ドナルド・トランプ米大統領に。音楽には本当に力がなかったのか」というブログだ。

ro69.jp

柴さんも言及している所在地や所得によって優劣が左右される際、そのどちらにも優位に立つ都市圏の高所得者、相反する地方の低所得者では圧倒的に後者の方が数多く存在するのは当然のことだ。日本でも中央集権や地方格差といったテーマで幾度となく議題になってきた事柄は、所変わっても発生する絶対的なジレンマであり、知識を持った人類が生んだ醜い争いの一つでもある。

floormag.net

音楽はいつだってそんな格差や差別のボーダーラインを超えてきた。時に1人のミュージシャン、時に1曲のヒットアンセム、時に1つのムーブメントが政治的、経済的に隔てられた人を繋げ、それは言語や人種も関係なく拡大し、僕たち私たちの歴史を創造してきた。必ずしもそれらが政治と繋がっているとは言えないが、時代を象徴する音楽/曲というのは、期せずしてその瞬間に生じた出来事とリンクして語られていくものである。

今年6月に起こったイギリスのEU離脱をめぐる一連騒動も、ミュージシャンは自身のファン、リスナーに向けてメッセージを発したがその願いは届かなかった。

ro69.jp

イギリス、アメリカの民主主義の崩壊。そんな風にネーミングされた記事も見かけた。でも、国民自身によってもたらさられた結果なのもまた事実。そして多くの国民は何かしたの音楽リスナーでもあるはずだ。間違った結果にならぬよう、ミュージシャンや芸能人達はライブで、SNSで、至るところでメッセージを発し続けていた。

ではなぜ、多くのファン/リスナーを要するミュージシャンたちの声がなぜこうも無情に響いたのか。それは羽鳥さんのこの一節が全てを説明していると思う。

これだけ多様性が謳われ、わずかながらでも少数派に肯定的な社会の仕組が整い始めてもなお、自分と違う意見、ものの見方、そうしたものに出会う機会や好奇心、探究心は、もはや努力しないと得ることすらできなくなっている。

どのカルチャー、テーマ、ジャンルでも引用される「多様性」。2016年の音楽を語る上でも「同時代性」と肩を並べてよく目にする言葉だ。音楽でも、スマートフォンの普及、Spotifyの登場やジャンルの細分化など、全てにおいて選択肢が増えたこと=「多様性」に置き換えることが出来る。

しかし、人はそんなに選択肢が多くても、いま自分が置かれた状況の中でしか選択ができない。選択肢が多かろうが少なかろうが、選択肢の中で”それ”しか選ぶことしかができないのだ。弱者とされる人による民意=EUの離脱、ドナルド・トランプと選択されたこと、それは高齢化社会が極まり、地方と都市の所得差が顕著な今現在を象徴する民主主義の一つの結果、とも受け取れる。

自分もSNSやブログを通じて自己主張している以上、多様性の中に組み込まれているし、少なからず多様性における偏った意見を無意識に鵜呑みにしている時もあるだろう。多様すぎることで安易にチョイスした選択肢のみに満足し、そのまま全能感を得てしまうことほど恐ろしいことはない。選択の多様性ではなく、多様性ある人が選択肢を作っていくことの方が健全なのかもしれない。

Appleの現CEO:ティム・クックは、今回の大統領選の結果の後、Apple社員を「多様性」に富んだ人達と称し、以下のメッセージを送ったらしい。

www.buzzfeed.com

ティムらしい発言だと共に、もしジョブズならどうしていただろう?と考えてしまった。おそらく「多様性」なんて都合の良い言葉は使わないだろう。

情報を待っていることが当たり前になったネット社会で、情報に踊らされている人はたくさんいる。自分もそうだ。だからこそ情報を求められる人でありたいと思うし、そのためには羽鳥さんの引用部にあるように、常に興味を絶やさないことが大切だとも思う。

音楽を聴くだけ。それでも構わないが、好きな歌があって好きなアーティストがいるなら、彼ら彼女らの声と行動にも注目してほしい。ほんの少し意識して耳と目を傾けるだけで自分の考え方に何かしら刺激をもたらしてくれると思うから。

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話は飛ぶが、トランプを選んだ「サイレントマジョリティー」の層が欅坂46の存在を知る由も無いだろうが、改めてこの曲が2016年にシェアされた意味も考えてしまう。〈Yesでいいのか?〉〈No!と言いなよ〉と歌う曲の中には以下の一節がある。

どこかの国の大統領が 言っていた(曲解して)

声を上げない者たちは 賛成していると…

選べることが大事なんだ 人に任せるな

行動しなければ Noと伝わらない

ここでいう大統領はニクソンをモチーフにしているのだが、奇しくも11月14日現在では見事のトランプを当てはめることできるフレーズになっている。最近ではナチスの軍服問題もあったが、秋元康自身の政治観が反映されたわけでもないだろう。ただ、現在を切り取り続けてきた秋元康が「サイレントマジョリティー」なんてキーワードを無鉄砲に使うはずもない。つまりはここ日本でも、近い将来、EU離脱トランプ大統領のような結末を迎える出来事が起こるのかもしれない。もしかしたら、もう後の祭りの段階なのかもしれないが...

www.youtube.com