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音楽について

Bandcamping Vol.3〜バンドキャンプで聴ける2016年のニューミュージック

お待たせしてませんが、Bandcampingの第3弾です。

久しぶりすぎて、自分でも過去に2回やっていたことすら忘れてました...

Bandcamp中心に入手・視聴できる音源を集めた特集なんですが、ありがたいことに年々フォローするページが増えて、今や毎日80通近い通知メールが届くんです。その中にはメジャーな作品もあれば、全く聞いたことのない名前のバンド、新しい音楽ジャンルから気色の悪いサウンドまでピンキリ。明確にジャンルを狙ったものから宝くじのように思わぬ出会いもあるBandcampは、使う人、使い方によって表情を変える音楽プラットフォームでもあります。

Bnadcampの利点はアーティストが作り出した製品(音源、アイテム)に直接対価を支払うことができることですが、name your price(リスナーが購入価格を決められる)やフリーダウンロードというように、需要/供給それぞれの状況に適した形式をその都度選択することができます。

 ということで、改めて活用について前置きしましたが第3弾はズバリ”BCで聴ける2016年のニューミュージック”です。

すでにCDでリリースされているもの、多くのメディアに取り上げられてる音源と、11月現在で現状は様々ですが、それでもBandcampを中心にピックアップした音源と関係する音源などを短くまとめてご紹介します。

以下、Vol.1, 2もよければどうぞ。

01. Dripping Wet - "Friends Forever"

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Dripping Wetなるテキサス州デントン出身の4人組ドリームポップバンドがどういった経緯か上海のインディーレーベル:BoringProductionsからアルバムをシェア。彼ら自身のBandcampアカウントから見るに、去年シェアしていた作品に過去のシングル(『Everything Grows // Yearbook』)を加えた新装盤が今作。4人全員がヴォーカル/コーラスを担当しており、歌に対してのイニシアチブが強いのかと思ったが、音源を聴く限りベースやシンセなど音そのもののボリュームがとにかくデカイ。ノイズやハウリングも聞こえるローファイなバンドサウンドはドリームポップブーム初期の懐かしい香りを想起させてくれる。一応Facebookもあるようだが、Twitter同様、ほぼ放置状態。「シティーハンター」などの画像も貼っていることからジャパニーズカルチャーに興味があるのだろうが...ならばなぜ上海のレーベル?と改めてその理由が気になる。

昨年はフィラデルフィアのアートロック/ガレージパンクバンドMarcury Girlsメディア企画で制作したミックスに収録曲「Everything Grows」がチョイスされていた。A Sunny Day In GlasgowThe Pains of Being Pure at HeartGirlpoolなどサイケデリックなバンドとも地続きで聞いてもらいたい。

02. RISONAM - How Lucky

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Seint Pepsi (現:Skeyer Spence), Spazzkid (現:Mark Redito), マクロスMACROSS 82-99Flamingosisといったヴェイパーウェイヴ/フューチャー・ベースを出自に持つ著名なトラックメイカーを数多く輩出してきたネットレーベル:KEATS//COLLECTIVE。そんな名レーベルに新たに名を刻んだのがバンクーバーの若きトラックメイカー:RISONAM。レーベルカラー通り、フューチャーベースを主体としながらも、ファーストインスピレーションとしてはやはりDaft PunkBreakbot直系の80'sハウスミュージックへの偏愛が伺える。洗礼されたコラージュセンスにはアシッドジャズやオールドスクールのビートも内包されており、レーベルの諸先輩同様、幅広いトラックメイクスキルを今後発揮してくれることだろう。

 以前は本名のAXIOM名義でも活動しており、その時の作品『The Sleep In Artist』(2015)ではチルウェイヴからのアプローチも感じられる。すでにBCのアカウントが排除されているためダウンロードはできないが’(視聴は可能)、レトロポップカルチャーをネットの海で自由に解釈するためのトレンドセッターたる力量はすでに備わっていたと言っていいでしょう。

03. Emily Reo - Spell 10"

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NYのブルックリンといえば、2000年代前半から2010年代にかけて隆盛したアメリカンインディーズムーブメントの中心地であり、今現在もその立ち位置は変わることなく雑多で自由、誰もがインディーズメントを背負うことのできる街である。

インディーズという言葉がメジャー化したことで、アーティストの認知度に比例せずとも素晴らしい音楽は数多く存在することが、ここ数年のインターネットにおける音楽コンテンツの充実によって明確なものとなった。デビューから3年が経過したブルックリンのシンガーソングライター:Emily Reoもそんな隆盛とネットワークの過度期に大きな影響を受けたミュージシャンの一人だろう。

デビュー作『Olive Juice』(2013)の時点ですでにシンガーソングライターの型にはまらない、フォークトロニカ、ネオフォークの精神を持ち合わせていた。サンプラーとアナログシンセを多様したグルーヴにフォーク調のコードを当てるディレクションは同時期に花開いたBon iver, Hundred Watersなどと共鳴するところがあるだろう。

name your priceでシェアされたシングル「Spell」は、ヴォコーダーを大胆に使用したサウンドコラージュが特徴的だ。合わせてシンセにも同エフェクトをかけることで過剰なまでにトラックのタフネスを際立たせており、十分なヴォリュームをシングルにて表現することでアルバムへの期待も膨らませている。カップリング「Stronger Swimmer」では水流音とシンセを絶妙にコラージュさせており、物悲しげなサウンドスケープに対して神秘的なヒーリング要素も加えている。

今回からカナダ出身で現在はトロントにて活動するWarren Hildebrand(from Foxes In Fiction)主宰のレーベル:Orchid Tapesからシェアされている。彼女とOrchid Tapes、そしてその周辺の音楽相関図は非常に愉快で、今シングルのクレジットを見てもなるほどと頷ける名前が並んでいる。ミックスは主宰でもあるWarrenが手掛け、ストリングスアレンジにはOwen Pallettが参加。Owenは今年Orchid Tapes所属のYohuna (a.k.a Johanne Swanson )の新作『Patientness』を全面プロデュースしており、Warrenもベース、Emilyもメロトロンにて参加している。

上記に挙げられたミュージシャンにまつわる作品として、夏にシェアされたOrchid Tapesのレーベルコンピレーションも合わせて紹介したい。

EmilyとYohunaが共作した「Teach You」、アッシュビルのローファイバンド:Elvis Depressedlyが2013年にリリースした『holo pleasures』に収められた「Weird Honey 」をOwen Pallett & Foxes in Fiction名義でカバーするなど、2016年も未だブルックリンを軸にした相関図の拡張が進んでいることを物語るラインアップに注目してもらいたい。特にAlex Gに関してはFrank OceanEndless』『Blomde』にてソングライティング面で多大な貢献をしており、改めて2016年を裏で支えたソングライターであることも最後に付け加えておきたい。

 ちなみに11/11にシェアされるSpeedy Ortizのフロント・ウーマン:Sadie Dupuisによる新プロジェクト:Sad13にEmilyはシンセベースで参加しているので要チェック。

04. Carter Tanton - Jettison the Valley

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 シェアされてすでに8ヶ月が経ってしまっているが(リリースは3/4)、Carter Tantonの紡ぐ音は冬支度の始まるこの10月にこそ聴きたくなるサウンドだ。

15歳から地元のバーステージにてライブ活動を始め、Pixies4ADからデビューするキッカケを作った初代プロデューサー:Gary Smithに御褒められたボルチモア出身のニューフォークSSW:Carter Tantonの2ndアルバムが今作。The War On Drugs, Sharon Van Ettenとの共演・サポートなどを務めたことからもボルチモアフィラデルフィア〜ブルックリンとアメリカーナ・ミュージックが北上するごとにサイケデリック性を強めていく傾向を感じ取ることができる。といってもCarterの音楽は別名義のプロジェクト: Luxury Linersに見るエレクトロ・ポップの引き出しや、サポートギターとしてツアーにも帯同したMarissa Nadlerに見るエキゾチックなコーラスワークなどを経て、独自のフォーク解釈を極めつつある。「Diamonds in the Mine」「Jettison the Valley (feat. Marissa Nadler) 」などを聴くと様々な経験によるフィードバックがギターやリズムに反映されていることを実感してもらえるはずだ。

Sharon Van Ettenが2曲参加しているが言わずもがな、黙っていても耳に入り込んでくる渋いコードに思わずハッとさせられ、その存在感の大きさに驚く。『Are We There』(2014)以降はツアーやフェスと並行して様々なプロジェクトに参加し、最近もフロリダの銃乱射事件に関して銃の安全性を訴える団体への支援金を募るために新曲「Not Myself」を書き下ろしたばかりだ。

Marissa Nadlerも『Jettison the Valley』とほぼ同時期に新作『Strangers』をシェアしている。発売元は前作同様Beach Houseらを抱えるBella Unionからだが、制作は暴力的なインダストリアル、グリッチ、荒々しいローファイポップまで幅広いジャンルのアーカイブを持つSacred Bones Recordsが担当していて、これには何か彼女の新たな意図があるのでないかと少し勘ぐってしまった。

 Carter Tanton, Sharon Van Etten, Marissa Nadler周辺の東海岸ベルトの動きについては今後もThe War On Drugs, The National, Kurt Vileらとの動向と合わせて追っておくとよりアメリカインディーミュージックを楽しむことができるはずだ。

 04. EZTV - High In Place

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再びブルックリンから。Ezra Tenenbaum (Vo, Gt)、Shane O’Connell (Ba)、Michael Stasiak (Dr)の3人がSpiritualizedの米ツアーにおけるバンドメンバー募集のために組んだバンドがEZTVの原型で、現在バンドはSpiritualizedとは系統の異なる独自の進化を遂げている。9月にリリースされた2nd『High In Place』は前項で述べたブルックリンインディーのもう一つの潮流とも呼べるカントリー/ブルースポップを汲んでおり,それはプロデューサーであるWoodsJarvis Taveniereの名を見つければ自然と納得できる。

3ピースでありながら達観した音を奏で、コーラスワークやテンポの取り方には熟練した経験値を感じずにはいられない。各々が音楽に精通しているのはもちろん、何よりブルックリン産のインディーポップへの造詣が深いこと、スネアの鳴り、ギターピッキングによるアタックのセンチメンタルな響きなど、細部にまで作品作りのこだわりが行き届いている。タイトなドラミング、気をてらうことなき普遍なグッドメロディー、60〜70'sアメリカンフォーク/ポップスへのリスペクトを徹底的にバンドサウンドへ昇華する熱心な姿は、ここ日本のニューミュージックシーンの盛り上がりにも共通する点だと思う。

現在バンドはMerchandiseのサポートを務めているが、先月まで回っていた北米ツアーの模様を収めた「Racing Country」のMVでJarvisを通じて知り合ったであろうJenny Lewisの姿を見つけることができる。Jennyはアルバムにも冒頭の「High Flying Faith」に参加。Jenny自身もEZTVはお気に入りのバンドのようである。

アルバムにはJenny以外にもReal EstateからMartin Courtney, Matt Kallman (ex:Girls)が参加しており、そのReal Estateとは北米ツアーを回っている。今年初めにはボストンでのステージでMartinと共演も果たしているのが記憶に新しい。

ゲストとしては今年2月に『Plaza』をシェアしたボストンのサイケデリックロックバンド:QuiltからJohn Andrews、かつてはDearfeefのメンバーでもあり、今年3月にはEZTVと同じくCaptured Tracksから新作『As If Apart』をシェアしたLAのSSW:Chris Cohenらがセッションに参加。Catwalk名義での活動を経て、The Byrdsの意志を引き継いだかのようなセンチメンタリズムを現代に甦らせたオークランドの才人:Nic Hesslerもクレジットされており、皆それぞれ多種多様な活動範囲を持ってインディーズシーンを盛り上げている。

 12月には Ultimate Paintingのサポートの為、三度アメリカに帰国しツアーを行うようだ。ぜひ日本にも来てもらいたい。

05. Weyes Blood - Front Row Seat To Earth

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アメリカ西海岸の有名なリゾート地サンタモニカに生まれた女神は、壮麗な容姿とは裏腹に実に天邪鬼で、奇天烈なミュージシャンとなってしまった。

Weyes BloodことNatalie Meringの織り成す音はアートワークとは裏腹にエキサイティングであり、牧歌的であり、唯一無二のポップソングでもある。多くの場所でNicoを例にダークサイドのポップアイコンとして語られることが多いが、確かにその流れに沿って語ることも至極真っ当だと思えるほどキャラクターとしてシニカルな人物だ。

美しさもさることながら、実はアーティストキャリアもすでに20年を超えているのだから驚きだ。お茶の間に出ることが許されないバンド名を持つJackie-O Motherfuckerにヴォーカル&ギタリストとして在籍していた過去も踏まえて、一筋縄ではいかない奇抜なアート表現は今作のコマーシャルでも健在である。

音楽性としては60年代のフォーク、カントリーをマイナーなポップスに振り切らせたようなメロディーが特徴的で、見方によればプロテスタントソングとも聴き取ることができるだろう。とにかく、どこかしらが歪んだレンズを通して世界を見ているよう。先行公開されたMV「Do You Need My Love」はまさにズレた設定がキーポイントとなっている。

ただ、被写体として理解不能な点がありつつも、その奏でる音楽の美しさに聴き惚れる点においては揺るぎがない。ノスタルジアの地平を見つめながらシルクロードを行く歌人のように、どの時代、どの土地にも根付いていく温かみのある声は、悪魔のような天使のささやきとでも言おうか。

Ariel Pinkなどを要するレーベル:Mexican Summer契約したデビュー作『The Innocents』から2年の歳月を経てシェアされた新作『Front Row Seat To Earth』(=地球の最前列席)は彼女のキャリア史上最も外に向けられた作品である。

Bandcampでは探す・見つける・追うといった全ての索敵結果において”タグ”が重要になってくる。単純に自身の出身地、メインジャンル、サブジャンル、楽器を付ける他にアーティストのアイデンティティーを象徴する言葉、新たにトレンドとなりそうな造語など、タグを見ることでアーティストが何を表現したいのかが見えてくる。

Weyes Bloodは常に"Celtic"(=ケルト), ”medieval”(=中世の〜)の2つをタグ付けしている。これを知っていれば「Do You Need My Love」のMVも彼女の築いた音楽表現の一つであることを理解してもらえるだろう。Bandcampというプラットフォームの特性を利用し、彼女はアートセンスをより神秘的なものにしながらリスナーにオリジナリティーを創造する楽しさも届けている。

エンジニア/プロデューサーに04で紹介したCarter Tantonが携わっていることも、インディーズの奥深き相関図を物語る一コマだ。人種の坩堝であるNYから中世のケルティッシュフォークが2016年にアップデートされているこの事実に、音楽と人の底知れぬ面白さが秘められているのかもしれない。

 07. KOOL A.D. - HAVE A NICE DREAM

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 いや、もっとクリエイター然としたアー写もあったにはあったけど...ただ、彼の音楽の更新速度や1作1作にかける過剰なまでの質量を象徴する画として、この皮肉めいた姿が一番しっくりくる。

ブルックリンを中心に約4年間活動していたヒップホップグループ:Das Racistの中心メンバーVictor VazquezのソロプロジェクトがKOOL A.D.である。他にも大学時代の友人たちと結成したBoy Crisisでのバンド活動もこなしていた過去もあり、当時はMGMTなどと共演するなど多彩な経歴を持つ。

冒頭に触れた通り、彼は異常なまでに多作家である。2016年現在、すでに8本のミックステープ(!)を自身のBCを通じてシェアしており、その内2本は100曲入りという破格のスケールを持って多作家を自負している。

 3月は『ALL LOVE』、4月には『REAL TALK』とマンスリーでシェアしたテープは、Das時代から彼がメインフィールドとしているオーソドックスなネタを引用した作品。随所にトークボックスやオートチューンを使用しているのは、やはり昨今のロボ声ブームに乗っかったのかな?とも。ただ、そんな最新のムーブメントを自身のスキルに反映させる能力に長けているからこそ、アイデアが乾かないのだろう。

 6月には10曲入りの『KOOL A.D. IS DEAD』 がシェア。ここでもトレンドであるバンドサウンドとサンプリングを大胆に取り込んでいる。バンドメンバーにはBoy CrisisからLee Pender, Alex KestnerTal Rozenがそれぞれギターやヴォーカルトラックを提供。他にもAriel Pinkのバックバンドを務めていたSpencer Owenなど、ライヴシーンで切磋琢磨し合った者同士の健全な関係性が生んだコラボレートに胸躍る。そんな友人たちのため、キチッと課金制を採用しているあたり、Bandcampと上手に付き合っている代表的なアーティストの一人であるといえよう。 

2016年に入りとにかくハイペースで作品をシェアし続けるKOOL A.D.だが、ここでさらにギアを1段階上げていく。4本目のテープ『GODS OF TOMORROW』 は『KOOL A.D. IS DEAD』からわずか3週間のスパンでシェアされ、世間の度肝を抜いた。前作のバンドサウンド・サンプリングの実験的なアプローチから再びオールドトラックを強めたヒップホップ作品に回帰するこの物腰の軽さ、改めて尊敬してしまう。

ソロワーク初期から一緒に作業を行っているカリフォルニアのプロデューサー:Amaze88が大半の曲を手掛け、その他にもクイーンズのディープディスコ系トラックメイカー:Mike Finitoが参加。

何と言っても驚きなのがFlying Lotusを長とするBrainfeederの猛虎:Busdriverと、シカゴにて路上生活を行いながら成り上がったブレイクビーツラッパー:Sharkulaのハイレベルなマッシュアップを堪能できる「PARTY TIL UR PREGNANT (SEANCE IN THE STUDIO REMIX) (FEAT. BUS DRIVER & SHARKULA) (PROD. DADDY KEV & TOO SHIRTS)」だ。Daddy Kevなどのトラックで15分半の大曲を完成させただけでも、このテープを聴く意味がある。

ネットコンテンツの強みである”録って出し”をここぞとばかりに利用したこのハイペースのリリースに対して、中身の質が全く劣ることがない、むしろ、トラック数、参加ゲスト、アティテュード、そのどれもが洗礼されていくのが不思議だ。

 洗礼されたテープをシェアした1週間後、7月に突入してすぐに『ZIG ZAG ZIG』なる100曲入りのテイク集を世の送り出す。もはや多作家の形容すら見当違いだったとリスナーとしてくじけそうになるが、アウトテイクとなった100曲をname your priceで提供するその裏には「捨て曲などない」というクリエイター精神溢れるメッセージを読み取ることもできる。

8月にはベイエリアのトラックメイカー/ラッパー:Trackademicksが全編プロデュースした『OFFICIAL』を世に放ち、E-40を元ネタとしたトラックにKOOLのCOOLなライムを載せるアヴァンギャルドな作風がなんとも痛快。

 

盟友Toro Y Moiなどを迎えた9月度の『PEYOTE KARAOKE』も全100曲のテイク集。『ZIG ZAG ZIG』同等の様々なトライアルの痕跡がパッケージされており、中でも70年代後半、ニューヨークを中心に隆盛したアンダーグラウンド・ムーブメント”ノー・ウェイヴ”を象徴する作品『No New York』(プロデュースはBrian Eno)には収録されず、後にSonic Youth結成の立役者ともなったGlenn Brancaが在籍したことでも有名なTheoretical Girlと、70~80年代を股にかけたBrian EnoTalking Headsでたどり着く人物:David Byrneを下地にした「HECKA VARIATIONS INTERNET REMIX (FEAT. THEORETICAL GIRLS & DAVID BYRNE) (PROD. KOOL A​.​D​.​)」など、前衛的なトラックメイクにも挑戦している。

JapanのベーシストであったMick Karnのインタビューセッションをサンプリングした「
GOLDEN RADIO VOICE (FEAT. MICK KARN) (PROD. KOOL A​.​D​.​)」も、声の加工に着手した点で最新作『HAVE A NICE DREAM』に繋がるセンテンスだと捉えることができる。

 10月末にシェアした新作は、上記7作での経験を踏まえた傑作であると共に、インターネットとリアルのボーダラインを融解させることに成功したニューミュージックの金字塔と例えられてもいいアルバムだ。

Trackademicks, Toro Y Moiらはもちろん、ブロンクスGordon Voidwellが手掛けた「JUST LIKE MAGIC (PROD. GORDON VOIDWELL)」ではThe Weekndなどを代表とするアーバンソウルなヴォーカルを真似ることで、2016年のミュージックシーンのド真ん中を撃ち抜く準備を整えている。80年代のディスコサウンドをアップデートしたGordonのトラックは、ヴェイパーウェイヴ〜フューチャーベースのさらに先の在り方を掲示しているようだ。

だが、あくまでGordonのトラックメイクにおけるトライアルウォームアップで、やはりメジャーシーンと接続するためにはそれを操るコンダクターと共犯関係になる必要がある。そこで招いた共犯者こそKanye West, Bon Iver, Cashmere Cat, The Weekndと錚々たる面子と肩を並べた風雲児:Francis and the LightsことFrancis Starliteその人だ。

”Prismizer”と呼ばれる特殊なヴォーカルエフェクトが特徴となる電子プログラミングが果たしてKOOL A.D.とマッチングするのか?結果は不安を払拭するどころか、Francisの物悲しげなヴォーカルとの絡みは抜群で、同時代性のラインアップにKOOL A.D.の名を並べるに何ら躊躇することない1曲に仕上がっている。

ベイエリア注目の新星Lil Bにトラックを提供していることでも知られるKEYBOARD KIDとは幾度となく作業を重ねてきたことが過去のアーカイブ、アウトテイク集を見ればわかるが、インパクトのあるタイトル「AMERICA IS DEAD (PROD. KEYBOARD KID)」を聞く限り、抽出に時間をかけたスウィートなメロウトラックは作品全体を決して浮いた存在にしないような立ち位置を担っている。

駆け足で振り返ったが、少しでもKOOL A.D.のタダモノではないクリエイティビティを感じてもらえたら幸いだ。彼の作品はname your priceでのシェアも多く、おそらく年内にあと1作は発表するのではないかと思われるので、ぜひフォローしておくことをオススメします(一応オフィシャルサイトのページも)

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