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音楽について

TopicUp Vol.4

01. Donnie Trumpet & The Social Experimentの未発表曲

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 去年フリーダウンロード作品でありながら数々のメディア年間ベスト上位に顔を出した傑作『Surf』はもちろんチェック済みでしょう。Chance The Rapperをメンバーに据え、トランペットプレイヤーのDonnie Trumpetを中心に結成されたこのバンド。ジャムセッションのようで入念なサウンドプロダクションを経て制作されたであろうアルバムは、チャンスの出目であるアシッドラップはもちろん、ネオソウルやシカゴブルース、時にポストロック的な解釈も可能なフィーリングをこちらに投げかけてくる。

 そんな『Surf』から漏れた未発表トラックは実際いくつ存在しているのだろう?必ずしもバンドとして5人が参加することが義務づけられているわけでもない、流動的なスタイルを持ち、大物から新星まで幅広くフックアップするその形態からおそらく収録された倍の曲数はレコーディングされたかもしれない。そんな推測の域を出ることのない予想をほんの少し確信に近づけるトピックとして、このミックスは存在する。緩やかで繊細なハーモニーを始めにチャンスのクセのあるライムが耳に届けられる。ハーモニーとヴォーカルは音楽の波を心地よくサーフしていく。2分も過ぎればミニマルな音色にシフトし、ボトムの締まったビートがアーバンになった気持ちをより加速させてくれる。

5分50秒あたりから突如ディスコトラックがインサートしたかと思えば、その後はアンビエントフォークを基調とした空気感が場を支配する。8分を過ぎるころ、再びバンドはアンサンブルの波にライドし、涙モンの美しきピアノを見ながらそのまま最後まで「Surf』の成分を含み終幕を迎える。

わずか11分足らずのトラック集(ミックス)が、彼らの最新EPを聴いたかのような、そんな満足感と達成感。チャンスは最新作『Coloring Book』 を完成させ(こちらも素晴らしい内容)いま現在はバンド自体の動きはほぼ休止状態だが着実に『Surf』の余波が音楽シーンを浸食し始めている。

 この『Surf』と『Coloring Book』の圧倒的なまでの話題性と革新性はアメリカの賞レースやチャートの評価基準にすら打撃を与えた。ミックステープなどフリーダウンロード可能な音楽作品もグラミー賞などの候補に挙げる署名運動が巻き起こり、実際グラミーやビルボードなどはこれら「音楽作品」の定義において早ければ来年からでも何らかのアクションがあるのではないかと期待されている。。 

bmr.jp

確かに今年はRihannaANTI』, Kanye WestThe Life Of Pablo』などのフリー&ストリーミング展開が確実に世界に衝撃をもたらしている。かと思えばそれら価格にこだわらない先駆者であったRadioheadは最新作『A Moon Shaped Pool』をサプライズリリースしたものの、iTunesを始めデジタル配信を皮切りに、Apple Musicでのストリーミング、約1ヶ月半遅れでのCD発売、そしてオフィシャルサイトでLPやブックレットが付いた限定盤を用意するなど、リスナーそれぞれの音楽環境に適応したコンテンツを揃えている。どれが正しいかではない。誰がすごいのかでもない。音楽が聴かれる際にリスナーが求めているニーズと、そのニーズのおける既成概念を打ち壊す何かがとても重要視されていて、ますますアーティスト自身が作品に対していかに意思を反映させていくかが注目されるようになっている。「The First Time」で混ぜ合わされたトラックが今後彼らの手によってリワークされるかはわからないけど、フリーダウンロードで得られる11分の未開地への冒険は、現状の音楽産業におけるエポックメイクな事件の序章の一幕にしか過ぎない。

 

02. "Forever Joy Divison"を掲げた夜〜New Order 16.05.27

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とんでもない夜だった。特別な夜になることはわかっていたのにそれでも意識は飛びそうになり、終演後はすぐさまその熱を誰かに伝えたくなった。体調不良で微熱とだるさが思考回路がちぐはぐになっていた5月末日。New Orderが処方した音楽の特効薬は風邪以外のものもキレイに治してくれたみたいだ。

最新作『Music Complete』を携えたツアーであり、来日公演自体はサマソニやフジなども含めて今までも数多く行ってはいる。しかし単独公演となると29年振りらしく、つまりは自分の生まれる前(今27歳)にまで遡ることになる。

ゲストDJの石野卓球ニュー・オーダーのリミックスはもちろん、「Blue Monday」などがサンプリングやマッシュアップされた楽曲のリミックスも回し、フロアを温めていく(特にKylie MinogueCan't Get You Out Of My Head」とのマッシュアップCan't Get Blue Monday Out Of My Head」は良かった)。

自分が足を運んだ5/27のセットリストは以下のとおり。どうやら5/25とは所々セトリが異なるらしく、両日行っても楽しめた単独公演になったよう。

一番の盛り上がりは何と言っても「Atmosphere」でしたね。「Love Will Tear Us Apart」との流れはかなりドラマティックだったし、その先に「Blue Monday」を待たせておくあたり、バーナード・サムナーのサービス精神も感じた。

その反面、懐古主義すぎるような演出に少し戸惑いを感じたのも事実。懐古主義と安易に言い切ってしまうのは危険だが、ピーター・フックとの因縁を差し置いたとしても未だ”Joy Division”の影がちらついてしまっていた。せっかく『Music Complete』という新たな羅針盤を見つけたのだから、それを手に次なる目印を見出すべきではないのか、と。

 しかし、たとえその懐古主義な演出を踏まえても、立ち止まらないニュー・オーダーの活動スタンスには敬意を表したいし、ライブ自体はポジティブなエネルギーが立ち込めていた。演奏スキルのアンバランスさは相変わらずではあるが、鳴らすべき音は鳴っていて、こちらが聴きたい/聴きたかった音楽を存分に聞かせてくれた。ピーター・フックとの関係修復なんて望まなくても、イアン・カーティスジョイ・ディヴィジョンの名をいくら使おうと、良いレコードとそれを肉体化できる場所させ担保できていればニュー・オーダーニュー・オーダーたり得る理由などいくらでもリスナー自身で見出せるはず。"Forever Joy Division" と掲げたこの夜は過去に終わってしまったバンドと過去を背負い続けたバンドがきちんと一つになった夜だった。

 

03 . 今年も必ずダウンロードすべし!アダルトスウィムのシングル企画

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 Adult Swimとはアメリカの子供向けケーブルチャンネル「カートゥーンネットワーク」の深夜放送休止時間の枠を利用し、18歳以上の若者を対象としたプログラムを組んでいるパートタイム・ネットワークを指す。あの「カーボウイ・ビバップ」がアメリカで初放送された際の受け口もここであり、日本のアニメも数多く放送されてきた。

そんなAdult Swimはテレビプログラム以外にも多方面のカルチャーコンテンツを展開している。その中にはもちろん音楽もあり、インディーからメジャーまで数々のレーベルと提携して企画を行っている。

毎年夏から冬の半年間にかけて企画されるこの「Adult Swim Singles」は隔週でバンドからトラックメイカーまでが新曲/未発表曲を発表していくもの。まずは現在(6/9)までに公開されている3トラックをどうぞ。ちなみに...全部フリーダウンロードなので。

※ダウンロードは公式サイトから

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・ビジュアルも毎年凝っており、公式サイトではスクロールで各トラックの切り替えが可能

 ここまでのスケジュールは...

DJ PAYPALVHÖLD∆WNまでは配信が完了。今後予定されているアーティストは...

 

Against Me!Blanck MassClarkDie AntwoordEarl Sweatshirt/KNX, Elysia CramptonFlying LotusHEALTH , Jenny Hval, Jlinm, KittyMetro Boomin'Mica LeviMike-Will Made It, Protomartyr, Rae Sremmurd, Run the JewelsRyan HemsworthSannhet, Thelonius Martin ft. Joey PurpTim HeckerVince Staplesと豪華絢爛。とにかく毎週サイトをチェック。 

TopicUp Vol.3

01. モノクロームのグラデーションの可能性〜Diane Birchのライブを観て

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「現代のキャロル・キング」と称されてデビューしたダイアン・バーチ。初めて見たのが2010年のフジロックか。それから早6年。デビューから数えればもう7年経つのを考えれば先日行われた久しぶりの来日公演の出来栄えにも納得がいく。

最新作『N O U S』は通算3枚目のオリジナルアルバムにして自身初のセルフプロデュース作品になっている。そのアルバムを携えて行われた今回のライブ。内容は過去作からもカバーまで、アダルトなムードとバラエティー豊かな楽曲が彩る極上の仕上がりとなった。

https://www.instagram.com/p/BFOcCRQKYBz/

Diane Birch @Blllboard Live Tokyo

今回のツアーにはシャーデーバンドマスターでもあり、ソロワークはもちろんヴァネッサ・プレイとのユニット:ツイン・デンジャーとしても活躍するスチュアート・マシューマン(Sax/Gt)がダイアンの楽曲の骨組みをしっかりと支えている。そのスチェアートのプレイにも期待しつつ最新作に収録された「Stand Under My Love」から開幕。グランドピアノを中心にダークでヘヴィーなサウンドが夜の六本木をよりロマンチックなものにする。M3「How Long」ではスチェアートのサックスが低音の効いたダイアンの声を持ち上げ、アンサンブルのアクセントとしても、ステージ上の映え方としても非常に有機的な役割を担っていた。

本編中盤にはシャーデーSmooth Operator」をスチェアートと2人でカバー。原曲の魅惑的なジャズセッションとは少し距離を置き、ダイアン自身のブレスやタメにおけるヴォーカルの特色を軸に置いたムーディーなアレンジがとにかく心地よかった。

曲が終わるごとに「アリガトウ」と観客に顔を向ける彼女は演奏中と打って変わってとてもキュートな一面を見せ、誰もがその愛らしい素振りにノックアウトされそうになる。脇腹あたりにスリットが入ったシックでセクシーな衣装もビルボードライブの、六本木の夜のドレスコードとして100点満点でしょ。

途中アルバム未収録の「Juno」が自然とインサートされ、そのままボビー・コールドウェルWhat You Won't Do For Love」を艶っぽくアップデートさせフロアをアダルトなパフュームで染める。本編ラスト「Nothing But a Miracle」では時にハンドマイクで観客とのコミュニケーションを積極的に取っていた。歌い込みの質が高いだけにスキャットやピアノの滑らかさ、バンドとのチームワークも完璧で、才あるだけではなくユーモアも音にフィードバックされていたのが新鮮に感じた。

 

アンコールは「Nothing Compares 2 U」「When Doves Cry」と彼女が偏愛してるとも言えるプリンスのカバーを披露。どちらも力強いピアノの打鍵が楽曲に対する愛とリスペクトを象徴していた。繊細だが思いっきりがよく、丁寧だが斜に構えてはいない。音楽と相思相愛な関係を築いたダイアン・バーチのライブをバンドコンディションも最高なタイミングで見ることができたことに感謝したいと同時に、もっと彼女のバックボーンが垂れ流しなった作品も聞いてみたいと思った。アートワークやアーティスト写真然り、それはまるでピアノの白鍵と黒鍵のようにモノクロームな世界で、幾重にも音色を重ねてきた彼女の音楽が描く限られた色のグラデーションは、限りにない可能性をまだまだ持っていることを証明してくれた。それは紛れもなくダイアン・バーチの新たな音楽を聴きたいという欲求なんだけどね。

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www.billboard-japan.com

 

 

02. ミラーボールの下で笑い泣く

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ふと自分のiTunesを眺めているとモーニング娘。'16泡沫サタデーナイト!』の再生数がいつの間にか200を超えていた。「おいおい、俺いつの間にこんな聴いてたんだよ...」と嘆こうかと思う矢先、ほらまた再生してる。

もうね、軽く中毒です。多分モー娘。、いやハロプロ関連でここまで一聴してからヘビロデしている曲は過去なかったはず。過去に藤本美貴会えない長い日曜日」、Buono!初恋サイダー」、モーニング娘。シャボン玉」あたりはハマっていたけど、それとは違ってもっと根底から「あっ、これ好きだわ!」と発狂したくなる感覚。津野米咲赤い公園)がつんく♂信仰の多作家なんてのは有名で、なおかつSMAP「Joy!!」において彼女が築いた”グループへの飽くなき愛情表現=絶対的な存在定義=世の中(時代)を代弁するということ”という時代を象徴するアンセムの要素を今回も見事に踏襲している。赤い公園では黄金律なコード進行から奇想天外な転調を繰り広げ、時に馬鹿らしく時に甘酸っぱい言葉を紡ぐ彼女のクリエイティビティがまた別のベクトルで発揮されている外仕事においても、「泡沫〜」はかなり王道路線である。むしろJ-POPのド定番を聴きながら作曲センスを養ってきた津野にとって王道を作る難しさは作曲の楽しみの一つでもあるのかもしれない。

 

ハロプロ全体としてつんく♂のワンマン体制からの解放に往年ファンが不安を覚えるのもわかる。つんく♂の音楽がそのままハロプロの音・キャッチコピーとなっていたのは確かだし、今後ハロプロ全体の最新曲がそれぞれつんく♂と比較されるのは避けられない。でもそれでいいと思う。いや、むしろ津野米咲に至ってはそれら過去の楽曲と比較され、同じディスコグラフィーに名を連ねただけでも十分だと感じているに違いない。そして歌っている本人たち(モー娘。のメンバー)たちがこの曲を一番楽しんでいる。さらにモー娘。に憧れ今現在アイドルとして活躍している面々からこの曲は賞賛されている。もうこれ以外にこの曲の説明はいらないだろう。 

あえて流行のネオディスコや鈴木香音卒業シングルについては書かなかったが、それらももちろんこの曲のポップネスを体現する要素としては必要不可欠だ。底抜けにタフで、踊ることに臆することなく、でも孤独とも手をつなぐ。さよならや苦しみを一人膝を抱えて叫ぶよりミラーボールの下でステップを踏みながら笑い泣く方が今の時代に寄り添っていると言える。人恋しいほどこういう曲は響いたりするんですよね。まだまだこの曲の再生回数は増えていくだろうな...

振りもノリやすいし、ライブでもハイライトになりそう

 

03. やはり星野源もハマった!J・ティンバーレイクの最新曲

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もっぱら最近は”ジャスティン”と言うと”ビーバー”となり、音楽以外でもやんちゃな彼のニュースが連想されるようになりましたね(それでも彼の最新アルバムは良かったけど)。でもね、真のジャスティンはやはり彼ですよ、ジャスティン・ティンバーレイク。実に3年ぶりとなる彼の最新曲「CAN'T STOP THE FEELING!」が最高にクールでハッピーで、間違いなくグラミーやスーパーボウルなどで披露されればハイライトとなるはず。

米国で今年公開されるドリームワークス最新作『Trolls』のテーマソングとして書き下ろされた新曲。彼自身も声優を務め、アンナ・ケンドリック、グウェン・ステファニーラッセル・ブランドらと共演している。そんなヴォイスキャストらが愉快に踊りリップシンクするMVがコレ。

そして彼と言えばその甘美なルックスとスタイルを武器に見るものを引き込むダンスパフォーマンスも魅力だ。そんな彼の魅力が詰め込まれた彼自身のオフィシャルMVは以下。白い衣装と軽快なステップワーク、脱帽。

様々な職種や世代の人々が踊る姿はファレル・ウイリアムスHAPPY』を連想させる。と言っても今現在彼は次なるアルバム制作も行っており、そこにはファレルに姿もあることから次回作はほぼ間違いなくこの路線を強く推し進めた内容になることだろう。

前作『The 20/20 Experience』によるプロデュースワーク&マーケティングは完璧だった。トム・フォードを着た彼がジェイZと共に奏でた「Suit & Tie」から幕を開け、翌年の賞レースも見事に制覇。エンターテイメントとプロフェッショナルを極め、プロデューサー、コンポーザー、ソングライター、パフォーマー、アクターとしてパーフェクトな仕事っぷりにはもう感服するしかない。アルバムの発売は今年暮れか来年か?いずれにしてもこの曲を鬼リピートして待つべし。

 

 

 

TopicUp Vol.2

01. 春めくアイドルの勝負曲(AKB, 乃木坂, 欅坂)

アイドル、と窓口を広く取るとキリがないので代表的なものについてのみ取り上げます 笑。

3月から4月にかけては卒業・入学シーズンということで、別れや出会いなどをテーマにした楽曲が数多くリリースされました。ことアイドルにおいてもその伝統的なテーマは健在で、むしろアイドルグループにとっては1つの象徴として機能している点もあります(進路や進学に向けての卒業など)。

AKB48, 乃木坂46, 欅坂46の3グループの最新曲は各グループカラーと強み、グループもしくは個人の次なるステップへの布石としての役割も担っています。

AKB48 - 君はメロディー

アイドル、かくしてAKB48に限って言えば今現在のアイドル像やジャンルを拡張した存在として運営方針やスキャンダルに至るまで、芸能面での効力も自ずと楽曲や評価に加味されていきます。もちろん、それらと絡めることでヒットした曲もあるし、「恋するフォーチュンクッキー」というお茶の間に着地することで得た新たなパブリックイメージもAKBでしか成し得られなかった成功論だと思う。10周年記念シングルであり春ソングとして位置付けられた今曲は新世代のセンターとして宮脇咲良を中心に据え、過去の卒業メンバーも参加したアニバーサリーシングル。自分は嫌いじゃないです、こういうベターオブベターな演出と設定。日本人が好む王道のコード進行とこれまた直球な歌詞。奇をてらうことなく「王道な時はどこまでも王道に」と言わんばかりの今作におけるAKBブランドの強さを表してます。

その反面、次世代へのバトンタッチがグループ課題となっているAKBにとっては”ベター過ぎた”と言い変えれる。カップリングには各姉妹グループの新曲、NGT48や乃木坂46とのコラボーレーションがあり、一種の沈黙とタブーを破ろうとする醍醐味はあるものの、AKB単体の未来を延命させるような事象とは言えない。今回に限ってはアニバーサリー感が全面に押し出てる分、その他の要素もそれに対する付加価値として解釈できるだろう。

改めて前田敦子大島優子は華があるなぁ...表情も良いですよね。

 

乃木坂46 - ハルジオンが咲く頃

AKB48が祝祭感に包まれて原点回帰&新世代を主張するタイミングで公式ライバルという当初のパブリックイメージは既にどこ吹く風。 乃木坂ブランドは昨年の紅白初出場を気に国民レベルで認知されることになったし、メンバー個人個人における活動がグループ全体のオリジナリティーをさらに唯一無二なものにしている。

そんな彼女たちにとっての春ソングは「卒業」を裏テーマとし、むしろ「門出を祝う」ために書かれた曲だ。グループ創設から在籍し、年長者としてまさに”乃木坂の母(聖母)”の名に偽りのない存在だった深川麻衣の卒業シングルという点において、これほどふさわしい曲はない。曲の中で深川自身の卒業について言及した部分はないが、他のメンバーが初聴時に感じたという深川麻衣の姿が、まさにこの曲を象徴する感想として適切だと思う(乃木坂46北野日奈子と寺田蘭世が明かす、“アイドルの楽しさ”と“3期生募集への焦り” リアルサウンド)。

乃木坂46の作品に付随するコンテンツとして毎回重要なファクターとなるのが映像である。MVを筆頭に個人MVなどがそれに当たるが、写真などの刹那を収めるというよりは動く姿をドキュメンタリーなビジュアルとして撮ることで、アイドル(虚像)と女性(実像)をクロスオーバーさせ様々な解釈を可能にしてきた。今回初めて女性監督(山戸結希)を起用したMVを一聴すれば、改めてその演出と現実に涙すること間違い無しだ。自分も初めて見た時は込み上げてくるものがあったし、ラストシーンに至るまで後ろめたさも後悔も全く感じさせない作りに思わず「これはズルい!」とうなってしまった 笑。

しかしながら、そこは秋元康だ。過去のしがらみや苦悩を感じさせない体でありながら、過去についてはむしろ表題として大きく取り上げている。春に咲く白と黄色が特徴のハルジオンの花。その花言葉が《追想の愛》である。《過去思い、偲ぶこと》を意味する花言葉は、深川麻衣が卒業後に抱くであろう感情を先読みし代弁しているかのよう。そこも踏まえて改めてMVを見返すと、これまた涙腺が崩壊してしまうのでご注意を。

ジャケットでは他のメンバーがカメラに目を合わせ前を向いているの対し、青空を背景に横を向き別の景色を見ている深川麻衣。まさにこれから違う世界を見ることになる彼女と、それでも前を向いていく他のメンバーを連想させる素晴らしいデザインだ。しかし、深川自身もまっすぐな目と微笑みを携えて前を向いているのがわかる。どう受け取るかはリスナーやファン次第だと思うが、乃木坂46というグループ単位での総意を理解することで、きっとこの曲を聴き返すたびに華々しい気持ちを思い起こすことができるだろう。

最後に深川麻衣自身の今作における言葉も合わせて。

realsound.jp

欅坂46 - サイレントマジョリティ

平手友梨奈

模範でもモデルでも、ましてや王道を行くセンターでもない。「規律」と「統制」を旗に行進する新たな隊を牽引するは若干14歳の少女と言うから驚きだ。

乃木坂46を始めとした"坂道シリーズ"の次なる道が彼女たち欅坂46。元々は〈鳥居坂46〉としてスタートした企画が後に変更になる事も話題性があった。コマーシャルの仕方も乃木坂46をモチーフにしており、冠番組やイベントへの参加などで着実にファンの地盤を固めていった反面、グループとしての特色に関しては少し希薄な印象として世間に認知されていたと思う。

自分は彼女たちを「お見立て会」以前から見させていただいていたけど、その頃とこのシングルの彼女たちの顔を比較した時のギャップと言ったら...人は自覚することで化けるんですね。すごいです。

その中でセンターを務め、実際にグループを牽引する平手友梨奈の存在は稀有のようで実は現代的、2016年的とも言える。「アイドルであること」を自覚しているアイドルは山ほどいるが、「アイドルであることを自覚している」ことを自覚している人、なおかつそれをファイティングポーズとしてセンターで構えられる人は早々いないと思う。

確かに多方面で言われている通り、前田敦子とも生駒里奈とも違う。でも、それら比較対象がいたからこその稀有さであることは疑いようもない事実で。

 

 以上3組以外にもこの春聴いてときめいたものも一緒に紹介しておきます。

Negicco - 矛盾、はじめました

乙女新党 - 雨と涙と乙女とたい焼き

清竜人25 -LOVE&WIFE&PEACE♡

夢みるアドレセンス -ファンタスティックパレード / おしえてシュレディンガー

callme - Can not change nothing

ミライスカート - 千年少女~Tin Ton de Schon〜

上記の中でも乙女新党はピカイチで良かった。クリエイター陣(作詞:高橋久美子 作曲:日高央 編曲:ヤマモトショウ・rionos)という布陣がそれぞれの仕事で200点満点出したような出来栄え。乙女新党と楽曲自体の相性も申し分ない。

 

02.  ギターを歪ますビートメイカー:ROM

R&Bやソウル、新進気鋭かつ伝統的なビートミュージックをクリエイトするアーティストをピックアップしフォローするネットレーベルSOULETIONから新たにバーミンガム出身で現在ロンドンにて活動する19歳のROMが登場。9歳からギターで楽曲制作を始めた若きトラックメイカーの音楽は00年代に彼が影響を受けたというR&Bやジャズがインスピレーションの源となっているらしい。

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特筆すべきはM2:「You Love Em (feat. Emmavie)」だろう。ロンドンのフェメールシンガーEmmavieをゲストに迎えたこの曲に漂う年齢を度返しにした伝統のジャズ/ソウルをアップデートする才能には心底驚かされた。Erykah Baduの地脈をたどるEmmavieのヴォーカルにも注目しておいて損はないだろう。ちなみにEmmavie自身が2013年にリリースした『L​+​VEHATER』は今なおnyp形式でダウンロード可能。今年になってトラップを基調とした新曲「BOOM」も発表してる。

M3:「ONE MORE」では彼と同じく19歳のトラックメイカDEFFIEとコラボ。昨年10月には連名作R.O.M+DEFFIE名義で『ENTROPY EP』をリリースしており、すでにその相性は阿吽の域に達している。

スウィートなギターから始まり、DEFFIEの特徴的なバウンシー溢れるハウスサウンドが見事に調和している。彼自身の音源も以下にてnypで入手できる。

冒頭ではトラックメイカーとして彼を表記したが、音源を聴き、周囲に気を配るとどうやらギタリストとしての本質こそがROM本来に魅力と言っていい。どのトラックでも有機的に機能する彼のギターはR&Bやジャズを咀嚼し始めたJeff Beckのような哀愁さも醸し出している。

説明が多少長くなったが以下にて試聴とフリーダウンロードが可能。2016年マストでチェックしておくべしかと。

 ダウンロードサイト

《追記》

同じくSoulection所属のプロデューサーIAMNOBODI の新たなEP『Imani』にもROM, Emmavieらが参加。こちらもGOODな作品。

※6月には来日もするそう