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音楽について

Spotifyを使い始めて考え直した音楽との向き合い方

先週末、ようやくSpotifyの招待コードが届きました。

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登録はいたってシンプル。アドレス登録やパスワード設定などは当然のようにあるけど、それ以降はスムーズに視聴画面にシフトします。

 

2016年9月29日、ここ日本でも音楽ストリーミングサービス「Spotify」がローンチされました。招待制のため、利用したい人はまず専用アプリをダウンロードし、招待コードをリクエストする必要があります。それでも、待つ価値はそれなりにあるとは思います。

ハッキリ言ってしまえば、”主に洋楽を好む音楽リスナー”であるかどうかが、Spotifyを使う上での線引きとなるでしょう。もちろん邦楽もありますが、正直、Apple Musicと比べるほどの数もありません。なので普段から邦楽を中心にJ-POPやアニソンを聴いているような人には、Spotifyをオススメできません。単純にトレンドを体験する意味でダウンロードし、使ってみる分にはいいですが、iTunesを始め、ウォークマンなど他のサービスにて日本の音楽を聴いている人は、無理せず現状維持で良いと思います。

使い始めて1週間ほどになりますが、有料プランであるSpotify Premium」(月額980円税込)に移行してからというもの、Apple Musicの利用回数が激減しました。そもそもiTunesの使用頻度が格段に減ってしまった。普段から世代もジャンルも、言語も問わず音楽を聴いている自分のような音楽リスナーには、とても画期的で有意義なリスニングスタイルを提供してくれるはずです。全くiTunesを使用しなくなったわけではありませんが、自身のPCなどに保存された音楽ファイルを再生する”ローカルファイル”コンテンツもあります。SpotifyからiTunesで利用していた音楽ファイルの再生も可能になった今、iTunesはダウンロード購入する際か、Apple Music独自のコンテンツにアクセスする時以外はめっきり立ち上げなったのが現状です。

 

Spotifyの特性については以下で記述されているとおり、今後の展開も含めて未だ実験段階な部分も多々あるようです。日本独自でエディターチームを組んだりするような方法論はSpotifyに限ったことではなく、スターバックスや同じスウェーデン発祥のIKEAなど、独自のサービスをグローバルに展開しようとする上で”その国その地域に適したサービス展開”を実現するため必要不可欠な考え方とも言えます。

realsound.jp

www.fashionsnap.com

toyokeizai.net

iPhone 7も発売された今年、おそらくまだ大半の日本人がiTunesを使用し、既存のミュージックアプリで音楽を再生して、備え付けのイヤフォンで音楽を聴いているはず。 それ自体は日常的に当たり前の風景として快くも感じますが、それでもSpotifyの展開がスターバックスIKEAと大きく違うのは、飲食や家具と違い、音楽が生活必需品ではない、という点。そこに時間とお金を割くことで、現状の生活に目に見えた形で有益なレスポンスがあるかどうか。極端な話、音楽は鳴っていてもいなくても人は生きていけますから。

そしてもう一つ。日本がいまだCDを主体とする、特異な消費大国であるということ。さらに音楽に対する文化的権威の低さも、2016年をめぐる世界の音楽との関係性においては重要な意識問題といえるでしょう。つまりは音楽を聴く人はいても「音楽を好き」という人は、実はマイノリティーな存在であるという現実。この根源的な問題に対して意欲的にタッチしているアーティストも多く見受けられますが、実情としてそこまで音楽に意識的にでも時間やお金を割く人が現実に大勢いるとは言えません。

いかに日本が特異か。それを裏付けるものとして、先日、アメリカレコード協会が発表した2016年上半期における音楽市場の売上レポートがあります。

fnmnl.tv

円グラフからも分かる通り、アメリカの音楽産業は今現在ストリーミングによる収益で成り立っています。そこから得られるアーティストへのロイヤリティは、当然のようにCDに比べ低く、その反動もあってか、アメリカでも日本同様にライブを主な収入源とする傾向にシフトしています。いや、むしろそれが主流と言ってもいいほど、フェスやライブツアーにおける興行が重視されている。

では、Spotifyの中身はどうなっているのか。

以下、Spotifyにおけるサービスの詳細やアーティストに支払われるロイヤリティの問題、それらの内訳におけるパーセンテージ、他の国におけるSpotifyのサービス展開の報告など、事細かく述べられた記事です。少々文量はありますが、一度目を通すだけでもここ日本で、何故Spotifyのような音楽サービスが、如何様にしてローンチしようと踏み切ったのかが見えてくるはずです。

jaykogami.com

 

SpotifyにしてもApple Musicにしても、ローンチしてから実際に使用している人をこの目で見る機会は少ない。それはやはりお互いのサービスにおける音楽アーカイブが、J-POP、ことアイドルやアニソンのCD消費によって潤うここ日本では、なかなか根付きにくいことを証明している。しかし、そんな予見はとうに考えられてきた課題であり、この先、日本の音楽産業が本格的にストリーミング主体になったらJASRAC含めた権利問題云々で足踏みする暇もなく、そんな課題などはクリアーになることでしょう。

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むしろCDかストリーミングかのハードな問題より、”日本の音楽文化に対する権威の低さ”こそ、もっと真剣に考えるべきではないかとSpotifyを使っていて感じるのです。

今年世界を騒がせた音楽作品であるKanye West『The Life Of Pablo』、David Bowie『★(Blackstar)』、BeyonceLemonade』、Frank Ocean『Blonde』などは、同時代性を物語る上でも重要で、とてつもない質量を内包した素晴らしいアルバムであるとともに、音楽の素晴らしさそのものを象徴するランドマークとして認識されています。日本でもTwitterを始め、SNSを通してみれば非常に都合よくこれらの作品の影響を感じることはできます。しかし、その影響が表面化することなく収束していってしまう流れを、日本の音楽産業は自然と生み出しているような気がしてなりません。

明確にしておきたいのは、産業がそうでも、決して日本の音楽自体が廃れていくわけではないといこと。椎名林檎中田ヤスタカにみるテクノロジーを取り入れて深化する音楽も、宇多田ヒカルFantôme』がグローバルに展開していった経緯も、星野源を持って知る世界と日本の折衷感も、全てが2016年に生じたこと。それをリスナーが「これが日本の音楽」と認識しながら、世界との違いに気付くこと。日本人にある外国人コンプレックス同様、まだ私たちは日本以外の世界を恐れている。そんな風に考えると、日本の音楽価値が向上するととも、日本人や日本そのものの価値観も変化していくように思えます。

 

長々と書いておいてなんですが、以下に掲載されている高橋芳朗氏による星野源へのインタビュー記事などを例に読んでもらえれば、少しは日本における音楽権威の意識問題を知ってもらえるのではないでしょうか。

realsound.jp

www.sensors.jp

 

今回はSpotifyを中心に、Apple Musicを比較対象としながら音楽産業への影響と今後世界に向けてリスナーがどんな意識を持つべきかを述べてきましたが、実際はYoutubeGoogleなどにおけるストリーミングサービスも含めて、いま何が起きているのかを知ることから始めなければならないのかもしれません。もう10月で、正直なところ少しもう手遅れな時期かもしれませんが、再度音楽について考えていこうと思います。

 

一応こちらにも記載しておきますがnoteの方でもいろいろ書いてます。

note.mu

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Fashion Music〜堂本剛のミラノコレクション参加について思うこと

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 9/21〜27の6日間、イタリアはミラノで開催されている〈Milan Fashion Week〉。

 

一般的に有名なパリコレクション、いわゆるパリコレの直前に行われるミラノコレクションは、パリコレ同様世界5大コレクション(開催順にロンドン、ニューヨーク、ミラノ、パリ、東京)の1つに数えられている。あまりファッションに関しての教養がない分、詳しい言及はしないが、そんな自分でも5大コレクションの名とその規模の大きさは把握できる。

なぜこんな説明をしているのかといえば、24日の朝、このツイートを見たことが引き金になっている。

 

 現地時間23日の夜に行われたAtsushi Nakashimaのコレクションにて、堂本剛が音楽監修を務めたというニュース。ツイッターではジャニーズファン、音楽好きを中心に拡散され、大きな話題となっていた。確かにすごい。思わず自分もつらつらと書きたいことを書いてしまうぐらいに。 

www.fashionsnap.com

 

ジャニーズという看板が大きな話題をさらに加速させていることは重々承知しているが、自分は純粋に彼が手掛けたその音楽のアプローチに興味が湧いた。

2012年に発表された『shamanippon -ラカチノトヒ』から彼はエレクトロニカの要素を本格的に導入し、それまでSly & The Family StoneやPrinceをベースにしたファンクバンドやポップスターのサウンドを、彼なりのエンタメ解釈と合わせて大きく更新させたのだ。

過去や周囲の影響を咀嚼し、アップデートすることで自身のオリジナリティを獲得することをパクリや模倣といって揶揄する傾向が日本にはある。しかし、彼の場合はジャニーズという前提からして過去をアップデートすること、それが許されてもいる存在だと受け取るべきではないか(ジャニーズは歌い継ぐ伝統がある)。「〜っぽい」などと言われ続けてきた彼が、この監修した音については間違いなく「堂本剛の音楽」を獲得している。それは素直に喜ぶべきだろう。

そして一番関心したこと。それは彼の生み出した音楽がファッションショーで使用される経緯を踏まえた上で製作された、極めて優れた空間音楽だったということ。音楽が主体となるのではなく、あくまでファッションと共にある音楽としてそこに響き渡ることを、彼はとても良く理解している。その反面、音楽の鳴らない瞬間的な無音も曲の一部として捉えている傾向は、James Blakeの香りも匂わせつつ、久石譲のメロディックな旋律にも縁を引くことができる。

 

他にもミュージシャン×ファッションを象徴するトピックは沢山ある。近しいところで言えば山口一郎サカナクション)× AOKI takamasaがパリコレにてANREALAGEの音楽監修を手掛けたことも、大きな話題となった。

 : ANREALAGE 2016 S/S COLLECTION -sound direction Ichiro Yamaguchi(サカナクション)-

フィールドレコーディングや身近なモノを使い、バイノーラル技術を用いて録音されたミニマムでクラブ志向のトラックは、音楽がファッションと、そしてショーアップされたこの状況と密接に共犯関係にあることを物語っている(※この動画もバイノーラル対応しているのでヘッドフォンなどで体験してみてほしい

 

世界に目を向けてみても音楽とファッションが1つのトレンドとして発信されることがポピュラーであるというべきトピックがある。今年サマーソニックにて来日したRadioheadのフロントマンThom Yorkeも、先日Rag & Boneのコレクションにて音楽監修を務めたばかりだ。

: Rag & Bone Spring/Summer 2017

 約10分強に及ぶサウンドはThom自身の声と限られたエフェクトが幾重にもレイヤー状に敷き詰められている。音は空気を伝わり、その振動波の大きさと長さで私たちは分別しているが、Thomの手掛けたアンビエントサウンドは服にはできない空間の装飾として、波長や波形を緻密にコントロールしている。目立たないが無ければ成立しない、自分にはそんな相互作用がこの映像からは伝わってくる。

 

奇抜な造形を特徴としているNYのストリートブランドHood by Airは去年に引き続き、ロンドンの若きトラックメイカー/プロデューサーであるArcaをNYコレクションにて起用。独創的なデザイン同様、Arcaもまた近代音楽の中で発明的なインダストリアルサウンドを創造している。

: Hood by Air | Spring Summer 2017 Full Fashion Show | Exclusive

 最近ではBjorkのアルバムプロデュースを手掛け、彼女のライブステージにおいてもオーケストラ隊を監督し、自身もラップトップにてプログラミングを行っているArca。他にもFKA twigs, Kanye Westなどにトラック提供している彼は、おそらく常に空間的な音のアウトプットを意識してクリエイティブしているのかもしれない。ビートレスで切り刻まれる小節とコードからサティのような柔らかいピアノの音色まで、人に見せられない領域を見せることで生まれるエモーショナルな瞬間を、Arcaは切り取り、ファッションというカテゴリに貼り付けている。

 

 

世界でも日本でも、いまミュージシャン・音楽家と呼ばれる人たちが他のカルチャーとメディアミックスを起こす現象が巻き起こっている。

顕著なのは映画と音楽で、RADWIMPSと『君の名。』における盛り上がりなどは社会現象と呼ぶにふさわしいトピックだろう。

realsound.jp

 

そしてやはり忘れてならないのはリオオリンピック/パラリンピック閉会式における「トーキョーショー」。 

堂本剛も敬愛する椎名林檎が監修したこの一連のショーは、音楽やダンス、テクノロジー、あらゆる要素がオリンピックの一部、東京の一部として成立している。自身を芸事を多用して表現する、そのプロデュースする能力に秀でた椎名林檎ならではの明確な4年後への布石だと思う。

 

堂本剛もまた、そんな彼女の伝統と芸能を理詰めで思考する部分を巧みに抽出して咀嚼し、自分なりにアップデートしている。ミラノコレクションの音楽も、奈良、雅楽、ファンク、骨董品、生花、古着など、彼を構成する様々な要素が年月をかけて蓄積し、堂本剛の音楽として結晶化されたにすぎない。この経験が彼にさらなるインスピレーションのアップデートを促しているだろうし、より伝統芸能に寄った、さらに堂本剛のハイブリッドミュージックをもっと聴かせて欲しいと、今はただただ熱望するばかりだ。 

 

最近気に入ったTVパフォーマンス(5+1)

noteの方ばかり更新していたのでこちらもなるべくタッチするようにしなければ。

 

音楽業界全体がライブを産業の中心に据え始めてから数年。

2016年も変わらずフェスを含めたライブ体験めがけて人々は集まり続けています。Apple Music、 Google Play Musicを主としたサブスクリプションサービス始め、CDを買うことは今改めてマイノリティーなことなのかは、もうすでに議論するようなことでもないように思います。もちろん”考えていく”話題ではありますが。

おそらく、これをアップする頃「MUSIC STATION ウルトラFES」が終わっているはずですが、今回はそんな「TVパフォーマンス」について。

日本では著作権(大方JASRACですが)の問題が大きく絡んでくるので、TV放映されたものをそのまま動画サイトにアップしてもすぐ削除されてしまいます。中には音や映像を加工して排除対象から逃れるものも数多くあります。が、それが見るに価する質かどうかは私たち視聴者によるでしょう。

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以下、貼ってあるTVパフォーマンスは海外のもので、Youtube自体にチャンネルを持ち、放送後数時間後にすぐさまアップされて世界配信されます。アーティストも日本と同じく、発売される/された新作プロモーションでオフォーする場合もあれば、それとは関係なくフェスや客演などのフックアップによってオファー要請に応える場合がある。

今回はアメリカにて放映されたTVパフォーマンスで特に胸熱なものをチョイス。それ以外もありますが、個人的にストックしておきたいものも一緒にまとめてありますので。

 

1. Ariana Grande - Side to Side with The Roots

 : from "The Tonight Show Starring Jimmy Fallon

 今年リリースされた新作『Dangerous Woman』がスマッシュヒット。ここ日本でもアリアナ人気は不動のものですが、その受け取られ方はアメリカと違い、やはりアーティストよりはアイドルとして注目されることが多い。でも、それでいいんです。アリアナ・グランデ自身の出自はそういうものだし、トレンドセッターとしてティーンの受け皿になることで他では到底届かないリスナーを獲得しているから。ザ・ルーツを従えて堂々と披露するニッキー・ミナージュとの「Side to Side」(今回ニッキーは不在)はクエスト・ラヴ(Dr.)の抑制が効いたグルーヴがアリアナのハイポップなヴォーカルと絶妙に絡む、非常にテクニカルなステージと言える。ティーンアイドルの色よりもディーヴァとして見事に羽化しつつあることを証明するこの映像。見ておいて損はない。いや、むしろ得しかない。

先日リリースされたマック・ミラーの新譜『The Divine FemineneI』でも同じく艶やかな歌声を提供しているので、こちらもぜひTVパフォーマンスを。 

3. Mac Miller - Dang! with Anderson Paak

:from "The Late Show with Stephen Colbert"

上にも書いた通り現在アリアナのボーイフレンドであるマック・ミラーも登場。今年リリースされた『Malibu』でさらにスポットライトを浴び、ソングライター/ラッパー/シンガー(さらにドラマー)として一気にスターダムを駆け上がるアンダーソン・パークを迎えた先行シングル「Dang!」をパフォーム。ブギーバックなサマーチューンとして普通に良曲なんですけど、アシッドジャズを地続きとする楽器の数々に間違いなく腰と足が反応するはず。アルバムにはアリアナ以外にもケンドリック・ラマータイ・ダラー・サインビラルロバート・グラスパーダム・ファンクなどが参加。

何か飛び抜けてヒットしたトラックがあるわけでもないが、アルバム全体のBPMも早いもので110後半ぐらいで、残りは100前後というジャズのタイム感も味わえる。若干24歳にして卓越したサンプリングセンスとプロデューススキルを合わせ持つだけに、アリアナが惚れるのもわかる気がする。

3. Bon Iver - 8 (circle)  

 : from "The Tonight Show Starring Jimmy Fallon"

間違いなくフランク・オーシャン『Blonde』と等しく、2016年を語る際にマストミュージックとなるであろうジャスティン・バーノン改めボン・イヴェールの新作『22, A Million』。宇多田ヒカルが新作を出した二日後(9/30)リリースされる今作からはすでに3曲が公式にアップされている(アルバムリリースのニュースがアップされたのちにフェスにて全曲披露されている)。そんな既発済みの3曲以外のニュートラック「8(circle)」をテレビにて初パフォーマンス。ラップトップを操り、バックにDJ、ドラムス、ギター、シンセを従え、コーラス隊にロンドンの三姉妹フォークユニット:ザ・ステイブスを招き神秘的なステージを演出している。フォークトロニカの先駆者とも言えるイヴェールにとって電子的な楽曲アプローチはなんら違和感がないが、2013年リリースされたカニエ・ウエスト『Yeezus』でアルカと同じく大きくフューチャーされた影響が、今回トラックやエフェクティブな面でダイレクトに表現されている。

同郷ウィスコンシンのバンド:コレクションズ・オブ・コロニーズ・オブ・ビーズとの混合バンド:ヴォルケーノ・クワイヤというアウトプットも持つ彼は、非常にフレキシブルである。アシッド・フォーク、アメリカン・フォークを下敷きに『Yeezus』ではダフト・パンクハドソン・モホークらと肩を並べ仕事をしている。彼の音楽は電解質な耐性を持ち合わせていて、それがヒップホップだろうがフォークだろうが見事に融解してみせる。それはおそらくアルカが突き進んだ道とはまた異なる形で今年結実することになるのが非常にドラマティックではないか。それが『22, A Dream』の本質になるだろうし、その音楽の枝はカシミーア・キャットフランシス・アンド・ザ・ライツ、チャンス・ザ・ラッパーを経てフランク・オーシャン、そしてKOHHシナプス宇多田ヒカルへ....この音楽相関図を完成させるXデーが9/30、『22, A Dream』の発売日であることを覚えておこう。これ、テストに出ます。 

4. Chance The Rapper - No Problem with Lil Wayne & 2 Chainz

:from "The Ellen DeGeneres Show"

さらにテスト範囲は続きます。チャンス・ザ・ラッパーがTVパフォーマンスを通して巻き起こした変革を告げるファンファーレがこの映像。 今年配信リリースされた『Coloring Book』は未だCDフォーマットでの発売予定はなく、 今後もその予定はないようだ。昨今のレーベルやレコード会社によるアーティストコントロールへのアンチテーゼであるこの曲。レコード会社の役員会議に乗り込むチャンスたちがハチャメチャに騒ぐ一方、途中からリル・ウェイン2チェインズが颯爽と入場しスタイリッシュにヴァースを決めるのが実にユーモラスに見える。レーベルと契約しなくても「No Problem」 (=問題ない)というテーマをTV画面の中で具現化した、非常に優れたエンターテイメントパフォーマンスだと思う。

5. CL - Lifted

:from - "The Late Late with James Corden"

何もアメリカの番組に出るのは西洋人だけじゃない。今年4月にはMac Millerと同じ”The Late Show with Stephen Colbert"にBABYMETALも出演している。いまアジア市場は世界から見ると突っつきたくなる場所なのかもしれない。インターネットやスマートフォンの登場によりジャンルが細分化された今、K-POPやJ-POPは「面白い」という概念ではなく「魅力的」に映っているのかもしれない。2NE1のメンバーであるCLは今もっとも音楽で成功を収めているアジア人かもしれない。しかもプロデュースはBIGBANGなどを手がけるTEDDY(YG)が担当。作詞はCL, TEDDYに加え、DJ Dramaのフックアップで注目されたユダヤ人ラッパー:Asher Rothも参加。ウータン・クランMethod Man」をサンプリングしたアメリカ進出を祝うこの1stシングル「Lifted」。3つのスキンカラーが掛け合わされ生まれたボーダーレスな化学反応だが、TEDDYが腰を据えて取り組んでいるだけに決してK-POPから遠く離れた地平に着地したわけではない。2015年11月にリリースされた「Hello Biitches」もTEDDYの手腕によってK-POPスクリレックスやディプロをミックスしたハイブリッドチューンとしてアップデートされている。そのスクリレックスG-DRAGON(BIGBANG)とCLをフィーチャーした「Dirty Vibe」を、ディプロはリフ・ラフOGマコ、CLを迎えて「Doctor Pepper」をそれぞれりリリースしているが、その影響は如実に結晶化されている。

「江南スタイル」をヒットさせたアメリカのマネジメントが彼女を担当しているのも、いかにこの全米進出が本気なのかが伝わってくるだろう。Spotifyのニューアーティスト枠で取り上げられるなどスタートは上々のようで、今後アルバム単位でビルボードにランクインするかも注目したいところ。

Extra. Radiohead - Present Tense

:Dir. Paul Thomas Anderson

TVパフォーマンスではないがどうしても残しておきたかったので番外編。

Daydreaming」に引き続きポール・トーマス・アンダーソンディレクションしたレディオヘッドPresent Tense」のパフォーマンスビデオ。ポールの自宅にて撮影されたこのビデオ。タイトルにもあるようにスロッピング・グリッスルなどが愛用したことでも知られるローランドのリズムボックス”CR-78”のスイッチをジョニーが押すところから始まるパフォーマンスは、焚き火の前で哀愁感漂うつかの間のひとときが収められている。肩の力も抜け、メロディーとアルペジオの余韻を味わいながら至福の時間に身を委ねるトムジョニー。そのリラックスした時間を物語るように、演奏後、CR-78を止めトムを見るジョニーの顔がなんとも愛おしい。

サマソニでも実際観て感じたが、いまレディオヘッドがバンド史上最も音楽的に解放された状態にあるという事実。各々のソロワークにおける自由度の高さが個人プレイの幅を広げ、メンバーシップにも良い影響を与えているのだろう。