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音楽について

黒いカラーコードと新たなボトルメール〜Secret Songs『shh#000000』~

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以前このブログで特集したRyan Hemsworth主宰のSecret Songsより新たに『shh#000000』なるニューカマー特集が発表。前回の『shh#ffb6c1』は女性中心のラインナップでしたが、今回は男性アーティストのサイケデリックな一面がまとめられています。まずは以下からダウンロードを。  

Download(※直リンク)

さて、ダウンロードしました?iTunesに入れました?プレイヤーに同期させました?とにかく聴く準備万端!… ということで前回と同じくここから個別に黒いカラーコードを紐解いてみましょう。

まずは改めてこのSecret Songsの主宰Ryan Hemsworthについて。彼のプロフィールについては前回のブログを参照してもらうとして、今回は『shh#ffb6c1』以降の動向をチェックしていきます。

Secret Songs『shh#ffb6c1』~近未来のネットミュージックに向けたボトルメール - out-focus

去年10/10には待望の来日公演が代官山UNITにて開催。チケットを確保して足を運んだが、やはり彼のプレイリストは柔軟で、それでいて新しい魅力を追い求める先進性も兼ね揃えているように感じた。ODDJOBと代官山UNITの10周年を祝した公演でもあったこの日は、tofubeats, Seiho, tomad, PUNPEE、さらにはスチャダラパーAFRA、そして藤井健太郎 feat. レイザーラモンRGまでもが同じ場に集うというバラエティーに富んだラインナップに。その多種多様な方向性をミックスさせたこの日の内容は、まさにRyanがここ日本の地を初めて踏んだ日の祝祭としてピッタリなものだったと思う。 

11月には2nd『Alone for the First Time』をリリース。前作も豪華ゲストが参加していたが今回もLontaliusDawn GoldenAlex G, Kotomi & DOSS, The GTW & little cloudらが集結。1stではメジャー感もあった音色が今回では彼本来のベッドルームミュージックへと再接近。参加したアーティストも"Ryanに選ばれた”のではなく"Ryanと組みたい"という肉体的な繋がりを感じるし、それがベッドルーム、つまりはネットを介した発信源から生まれたものであることから、改めて2010年以降のネットワーク時代の象徴がRyan Hemsworthを中心に語られることに何ら違和感のない現状が今まさにここにある。

因みにこの『Alone for the First Time』は2/28に日本盤がリリースされる。日本盤は『Alone For The First Time +5』としてtofubeatsとのコラボトラック<Inside The Heart>、Qrionを迎えた<Every Square>、XXYYXXによるリミックスなどを含む5曲のボーナストラックを追加収録。以下、彼のSoundCloudではそれらの楽曲が公開されているので、発売まで待てないという人はチェックしてみては?一部フリーDLも可能です。

さて、『shh#ffb6c1』から僅か3か月足らずでそれこそ光回線の如く活躍する彼が、その光速の中で出会った10組の黒い才能に一体何を感じたのだろう?というわけで、Ryanが認めた新たな黒いボトルメールの中身をこれから紹介していきたい。

M1. fifty grand - when you go back alone

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ハリウッドを拠点にエクスペリメントかつインダストリアルなトラックメイクを得意とする人物。最近はdoujinshiとのコラボ作<WARM CHAINS >がネット上で驚異的にバズっていたのが記憶に新しい。

彼のSoundCloudにはアンビエント、グライム、R&Bからビートトラックに至るまでインダストリアルな質感をベースに、ネットミュージックにおける幅広い音脈が垣間見れる。最近では同じくロサンゼルスを拠点とする若干16歳のビートメイカーTRIAD$の新作『Beta EP』にも参加。これにはLAラッパーのBonesMadblissも名を連ねており、fifty grand同様に認知しておいて損はない。(※下記Bandcampでは課金だがMediaFireよりフリーダウンロード可)

また、彼のBandcampでは初期作『Join You (The October Demos)』と2014年4月にリリースした『I Don't Know Why』がnypで入手可能。前者は彼の得意とするトリップ感のあるエフェクトを用いており、後者ではアコースティックギターによるアルペジオが強調された作風が光っている。あくまで憶測だが、彼自身のジェンダーな部分でのコンプレックスが彼の音楽におけるアウトプットの動機ではないかな、と(彼について検索すると女装していたり女性的なワードが出てくるので)。そんな考えも含め、中性的でジャンルレスな彼の作品性が、非常に黒い可能性を秘めていることは確かだ。

M2. fknsyd - GULLY

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詳しい詳細が見当たらないがアメリカの Sydney Fisherなる女性トラックメイカーがその正体だろう。Twitterではセルフィと思わしき写真が数多く挙げられているのを見ると、この<GULLY>からは想像できない可憐な容姿に驚くことだろう。

あくまで男性を主体とした今回の『shh#000000』だが、そのタイトルの意味が黒のカラーコードであるように、収録された各楽曲のメロディーや音色におけるイメージカラーが際立つトラック、アーティストがチョイスされている。この<GULLY>もダウンテンポでありながらバックグラウンドにはドローンやシンセポップが見え隠れしているし、女性のダークな感性をまがまがしく表現した楽曲がいちいちニクい。毎回コンピレーションなどテーマやコンセプトを強く打ち出した企画では、その本質を裏から証明する存在を必ず忍ばせてくる。男性を中心にしたというコンセプトだからこそ、女性の概念による黒の識別は最もな考察。何ともRyanらしいキュレーション。

M3. Yung Gutted×Wiki - Facts

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ロンドンのミュージックレーベルEARNEST ENDEAVOURSに所属し、NYのヒップホップ集団NSPのクルーとしても活躍するブルックリン出身のトラック/ビートメイカーYung Gutted。2014年はLAのバンド†††(Crosses)のアルバムリミックスにも参加。10月には同じくNSPのクルーCZARQUANが参加した4曲入りのフリーEP『TOWERS EP』も発表。

今回は同じくNYからマンハッタンを拠点にするヒップホップ集団Ratkingからpatrick WIKI moralesがラップ参加。クセの強いWikiのライムがGuttedのウィッチなトラックの容赦なく絡みつく。Ryan Hemsworthも西側のWEDIDITの一員でありながら、ニューヨークなど東側の人脈ともフレキシブルにコンタクトを取る姿が今までも数多く見られた。なのでこういった東側からのチョイスは不思議ではないが、ネットを通じて盛んに情報がやり取りされる今現在ならではの関係性とも言える。

M4. Kid Smpl - Vaccine

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シアトルのHush Hush Recordsに所属するJoey Butler(22)が生み出すその音は非常に危うい。FKA twigs<Video Girl>をより硬質的に分解/再構築したその技量と、去年3月にリリースされた『Silo Tear EP』におけるサンプリングやエフェクトノイズの多様性など、未だ発展途上ながら成熟した落ち着きも感じられる。

提供された<Vaccine>でもその相反する成熟度と幼児性が入り組んだかのようにダークに表現され、ノイズが差し込まれながらドープかつどこか親しみやすさすら感じる色合いがクセになってくる。SoundCloudではJhene Aiko, How To Dress Well, Lianne La Havasなどのリミックスがアップされているのでこちらの手腕も逃さず確認を。これは今後化ける可能性大。

M5. Morly - Maelstrom

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これまた謎めいた存在。ミネアポリス出身であること、そしてプロフィールや彼の今現在確認できる数少ないオリジナル曲から感じられるクラシック音楽からの影響。「phonometrician」という単語がエリック・サティを意識したのかはさておき、彼のSoundCloudにある<Seraphese>とBanks<Drowning>のリミックス、そして今回の<Maelstrom>には随分と距離がある。Tumblrには彼のお気に入りと思われる動画が貼られているが、これもまた不可思議なほどに統一感がない。つまりはそんな雑食性溢れたクラシックを素養に持つトラックメイカーである、という部分にRyanも惹かれたのであろう。ダークなイメージはタイトル通り、渦を成して幾何学なサウンドテクスチャーへと吸い込まれていく聴き手を巻き込んでいく。非常に中毒性が高い黒さだ。

M6. Patchrik - ~__~

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 LAのPatrick Magnoなる男性トラックメイカー。これまた情報が乏しいが、アンビエント風味でありながらインダストリアルなサンプルとエフェクトを駆使しているトラックを聴くと、確実に2013年以降、もっと言うならArcaAphex TwimSyro』、はたまたOneohtrix Point Neverなどのインテリジェンスでロールプレイングな感性も持ち合わせていそうな人物だ。

彼の音源はSecret Songsに提供された<~__~>以外に彼のSoundCloudにてフリーダウロード可能。上記にある処女作『ISO EP (LFTF006)』はPC Music♩Maltine Records等に通じるラフで無邪気なサウンドが特徴的ではあるが、それでいてヒップな一面とは裏腹にドメスティックな空気感も内包している。思うにRyan Hemsworthの理想するビートメイカー/トラックメイカーに近しいサウンドクリエイターのようにも考えることができる。それこそ黒でありながらシーパンクやバレアレック、UKガラージ、バブルガムベースまで昇華してしまうような…Patrick、これは要注意かと。

M7. Beat Culture - CLOSER

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今回の『shh#000000』にて最も名の知れた存在が彼だろう。Beat CultureことSunik Kimは現在拠点をアメリカに移し、マイペースにクリエイト活動を行っている韓国人トラックメイカーである。『Goldenbacked Weaver』や『Tokyo Dreamer』といった作品群はその都度流行の最先端とリンクし、それでありながら音楽のヒエログリフとも言えるような、過去のエレクトロニカ、テクノ、もしくはチルウェイヴなどのサウンドも引用しているのが何ともティーンらしい冒険心だと思っていた。しかし、去年B3SCI Recordsからリリースされた最新作『Drifter / Shibuya』では、彼が今までに見せたことのない妖艶でメロウなサウンドが前面に表れている。ブルックリンの3ピースシンセバンドPsychic Twinを迎えた<Drifter>、Ninja Tuneからのリリースでも知られるAnn Alexander ThweattのプロジェクトKid Aが歌う<Shibuya>はどちらも今回の<CLOSER>に至るまでには欠かせない重要なインダストリアルファクターである。アンビエンス色とアブストラクトな側面が強調され、R&Bやシンセポップといったカテゴリーとのコラボレーションにも今後期待ができそうだが、今回このダークカラーのタグ付けにより、ヒップホップサイドのビートメイクにもより磨きがかかりそうだ。以下にはSaint Pepsi(最近"Skylar Spence"に改名)によるリミックスも。

M8. Fever Trails - Scrum

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黒いタグは大陸を問わず。南アフリカケープタウンのFever TrailsことNicolaas Van Reenanは24歳の電子音楽家である。映画やCMなどの音楽を手掛けながら、トラックメイカー/DJとしても才能を磨いているようだ。まずは彼が去年発表したデビューEPを。

 クラシカルでありながらエフェクトを多用し、アナログシンセのミニマムな空間作りも同期させている。やはりそれはAphex TwimやOPN等のアイデンティティのようにも受け取れるが、去年12月にケープタウンにて行われたSónarのイベントではDJとして多彩なアイデアとジャンルに理解があることを証明している。その際のミックスもSoundCloudにて視聴可能。

こうやって見ると<Scrum>はそれらリリース済みの作品とは別のベクトルを指している。質感はレトロでありながら、テクノミュージックの温故知新を咀嚼しつつアンニュイな笑みすら想像させる。これは一見ベーシックに見せた腹黒い人物かも...

M9. Dro Carey - Rollcage

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ドイツ/ロンドンを中心にトラックメイカーやDJのサポート活動を行っているGRECO-ROMANに所属するシドニーの青年Tuff ShermことDro Carey。今回彼の提供した<Rollcage>はJuke/Footwork等を飲みこみながら収録曲の中で最もフロア志向なトラックである。非常にBPMの速い曲ではあるが、使用されている音のコラージュ感はやはりどこか狂気に満ちている。とはいえ以下にある2012年にリリースされた彼の初期作ではそんなカオスな一面がよりハッキリと映し出されている。

グライム然りC&S然り、トリップポップなど様々なテクノ/エレクトロニカムーブメントの要素を拝借しているのが明確だ。最近のトピックとして興味深かったのは2014年11月に掲載されたThe FADERでのインタビューミックスBok BokClap! Clap!なども絡めた約1時間のミックスは彼のリスナーセンスの奥深さを匂わせる内容。彼のSoundCloudのタイムラインを見れば、それらのセンスとテクニックが磨かれているであろうユニークでオールラウンドなトラックがリポストされている。既に活躍は折り紙付きだが、2015年、もしくは今年の前半の内にこの黒い企画と共に、さらに活動の規模を大きなステージへと移してほしい。

M10. Fresing - In These Flashes

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ミズーリ州のベッドルームクリエイター。オランダのトラックメイカーSan Holoが主宰する電子音楽レーベルbitbirdに所属。活動歴は浅く、2014年後半にその名を聞く機会が増えたのを覚えている。以下、彼の作品群である(一部を除いてほぼ全てフリーで入手可能)

『shh#000000』にはムード感漂うアンビエンスドローン<In These Flashes>を提供しているが、各音源を聴く限りミニマムな空間構成とR&Bやソウルミュージックにも傾倒した黒さを合わせ持っている。ジャケットなどを見るとシューゲイズやマッドチェスター等のロックな部分もあるのでは?と推測できるが、そこはあくまで想像の域。とはいえRyanもロックなどの肉体的な音楽を聴いていることだし、この企画にキュレーションされたクリエイター達には複数の要素を昇華しているという、今現在では至極当然な共通点がもちろんある。

最近はこのSecret Songs以外でもビートメイカーであるKatuchatのEPにリミックス参加している。このリミックスも含め、このEP自体もハイクオリティな作品なので是非聴いておいて欲しい。

 

M11. Eric Dingus - Sin With

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オースティンのこれまた若き(現在19歳!)プロデューサー兼トラックメイカー。ヒップホップを中心にその若々しくも洗礼された才気を縦横無尽に発揮している、まさにニューエイジな存在だ。2014年はDrakeを中心とするOVOのニューカマーJimmy JohnsonのデビューEPを全面プロデュース。

デビューEPの方は現在視聴のみ可能だが、去年11月に同じくEricがほぼ全面プロデュースした2ndミックステープ『Red Ferrari』は以下にてフリーダウンロード可能。

この『Red Ferrari』をリリースした翌月にはテキサスのラッパーDowrongのデビューEPもプロデュース。Jimmy Johnsonではそのスウィートなヴォーカルを活かすためにもアンビエント色の音数の抑えたトラックメイクがキメ技だったが、こちらではギャングスタなノリに沿うようにかなりアクの強い楽曲を提供している。今年に入ってからはオースティンのBishop Lightとの作品『First Love EP』も手掛けており、Ericの手腕に惚れ込む若いラッパーが今現在も数多くいることが、彼の経歴をさらに確かなものにしていくに違いない。

 <Sin With>は以上に紹介した彼のディスコグラフィーとは少し異なる、彼の新基軸な一面を感じることができる。ノイズやドラムサンプルの配置、それまでのヒップホップトラックではライムごとの区切りやプロデュースする相手のフロウのクセなど、彼なりに前提状況を決めた中での自由があったと思うのだが、今回はトラックのみによるEric Dingus自身のスピリチュアルな黒いセンスを引き出した楽曲、という印象が強い。繊細かつ熟考された手早いスタイルと同時に、非常にマイノリティーな存在であるコンプレックスすら察することができる。それらL⇔Rに振られるようなクリエイティブマインドも.『shh#000000』後にアップされた最新トラック<Night Gallery>によって何か不思議な調和を果たしたように思う。近々彼単独のEPがリリースされるようなので、彼のSoundCloudTwitterのチェックを忘れずに。

 

さて、この10組、いや、彼らに付随する数多くのミュージシャンが黒のカラーコードの下、非常に不可解でミステリアスな楽曲を聴かせてくれた。この黒のカラーリングがまさに何者にも染まらない色のように、全体としてインダストリアル、クラウド、グライムなどの自由度は高くも硬質で揺るぎのないトラックが並ぶ統一感がある。それこそ去年末にはD'Angeloが突如『Black Messiah』というタイトルでカムバックし、最近ではuser48736353001というAphex Twinと思わしき黒一色の謎のアカウント(ほぼ間違いなく本人…)が突如150曲以上の音源をフリー公開したりと、究極のメッセージカラーとして、2014年から今年にかけて黒が全てを多い尽くす予感がある。

黒いカラーコードが予感させる黒に覆われる年、と言い例えてしまうとネガティブな展望に怯えてしまうかもしれないが、そうではない。寧ろ余りにもジャンルやカテゴリー、そしてメディアやコマーシャルすら飽和状態にある今の社会において、自身が揺るがないこと、もしくは他者に染まらないことは非常に重要な決意であり、この封切った黒いボトルメールを再びネットの海に流すことで、また新たな決意を持ったリスナーやクリエイターが生まれるはずだ。おそらくその成果を知るまで、1年とかからないはずだろう…